CPL-300 円偏光ルミネッセンス測定システムを用いることで、磁気円偏光発光(MCPL) スペクトルの測定が可能です。これにより、蛍光バンドの帰属や電子構造に関する詳細な知見を得ることができます。
MCPL 特性を有するフタロシアニン錯体は、3D ディスプレイ、セキュリティーインク、および円偏光有機発光ダイオード(CP-OLED) などへの応用が期待され、注目を集めています1)。これら光物性材料の研究開発において、その発光過程における詳細な電子構造や光学的・磁気的特性の理解が重要です。MCPL 分光法は、特徴的な光物性を有するフタロシアニンやポルフィリン類の発光過程におけるこれらの情報を取得する目的で利用されてきました2-4)。
MCPL 分光法では、180 度配置光学系を備えた CPL 測定システムを用い、磁場方向と光の進行方向が平行となるファラデー配置で試料に磁場を印加し、左右円偏光の発光強度の差を検出することで測定が行われます。そして、得られた MCPL および蛍光スペクトルを解析することで、分子の電子構造や光学的・磁気的特性を評価することができます。なお、通常の円偏光発光 (CPL) は、キラルな構造を有する分子特有の性質です。一方、MCPL は外部磁場の影響を受けた分子の電子状態が、左円偏光(lcp light)と右円偏光(rcp light)に対して異なる相互作用をすることに起因しています。従って、この性質は不斉源の有無に関わらず、発光性を示す全ての分子において確認することができます。
ここでは、180 度配置光学系を有する CPL-300 を用いて、フタロシアニンクロロアルミニウム (AlPc) のMCPL と蛍光スペクトルを取得しました。そして、得られたスペクトルを、時間依存密度汎関数法 (TD-DFT 法) に基づいて解析することで、発光過程における蛍光バンドの帰属を行いました。また、lcp 光と rcp 光の蛍光成分を独立に決定する direct-separation approach を用いて5)、発光過程における 2 つの電子状態の分布を決定し、それらの分布をボルツマン分布と比較した結果についても報告します。
1) S. Suzuki, D. Suzuki, S. Suzuki, R. Shikura, Y. Yamamoto, S. Yagi, Y. Imai: Chem. Lett., 53, upae063 (2024). DOI: 10.1093/chemle/upae063
2) D. H. Metcalf, T. C. VanCott, S. W. Snyder, P. N. Schatz, B. E. Williamson: J. Phys. Chem., 94, 2828-2832 (1990). DOI: 10.1021/j100370a020
3) C. V. Diaconu, E. R. Batista, R. L. Martin, D. L. Smith, B. K. Crone, S. A. Crooker, D. L. Smith’s: J. Appl. Phys., 109, 073513 (2011). DOI: 10.1063/1.3569584
4) S. Ghidinelli, S. Abbate, G. Mazzeo, L. Paoloni, E. Viola, C. Ercolani, M. P. Donzello, G. Longhi: Chirality, 32, 808-816 (2020). DOI: 10.1002/chir.23221
5) S. Suzuki, A. Santria, T. Oyama, K. Akao, N. Ishikawa: Chirality, 36, e23625 (2024). DOI: 10.1002/chir.23625