製薬関連や基礎研究の分野では、タンパク質やそれらをモデル化したペプチドの研究が盛んに行われています。タンパク質の機能はその立体構造と密接に関係しており、タンパク質やそのモデルペプチドの構造解析はそれらの生体活性を解明する上で必要な情報の一つとされています。NMR や X 線結晶構造解析はタンパク質の立体構造を一義的に決定できる強力な手法ですが、多くのサンプル量を必要とすることや測定や解析に時間がかかるなど欠点もあります。それに対し CD 測定法は、測定が簡便で微量測定が可能なため、タンパク質やペプチドの全体的な構造推定や、pH や温度変化、リガンドの滴下に伴う構造変化の追跡などに適した測定法です。
CD スペクトルからの構造解析では、helix、β-sheet、turn、random 構造の 4 つのリファレンススペクトルを用い、最小二乗法によってこれら二次構造の存在比率が算出されます。日本分光製二次構造解析プログラムには Yang 等が提唱したリファレンススペクトルと Reed 等が提唱したものが標準で搭載されています。Yang 等は X 線結晶構造解析で二次構造の存在比が決定されたタンパク質について CD スペクトルを測定し、そこから各二次構造のリファレンススペクトルを算出しています。それに対し、Reed 等は各二次構造を形成するポリペプチドの CD スペクトルを元にリファレンススペクトルを算出しています。Yang 等のリファレンスデータはタンパク質の二次構造解析に、Reed 等のリファレンスデータはポリペプチドの二次構造解析に適したものと言えます。ここでは、ポリ-L-グルタミン酸ナトリウム水溶液への希硫酸の滴定に伴う CD スペクトルの変化と二次構造解析について紹介します。