メッセンジャー RNA (mRNA) の免疫原性を低減する修飾核酸の発見および脂質ナノ粒子 (LNP) を用いたドラッグデリバリーの技術の確立によって mRNA の医薬品への応用研究が広くおこなわれるようになりました1)。特に mRNA ワクチンが新型コロナウィルス感染症 (COVID-19) の終息に大きな役割を担ったことで、mRNA 医薬の研究開発が注目を集めています。mRNA 医薬は迅速な開発が可能であるため、ワクチンのみならず様々なアンメットメディカルニーズに対する医薬品として期待され、2023年5月時点で 100 品目以上が臨床試験段階に到達しています2,3)。一方で、mRNA 医薬は熱安定性の低さが輸送や保管における課題の一つとなっていることから、LNP で製剤化された状態の mRNA の高次構造やその安定性、物理化学的特性を明らかにすることは堅牢な mRNA 医薬の開発に繋がると考えられています4)。
円二色性 (CD) 分光法は、タンパク質や核酸等の生体高分子の高次構造を低濃度、迅速に評価できる手法として広く知られています5,6)。加えて、熱、pH、添加剤、化学変性剤などの摂動によるタンパク質や核酸の構造変化を追跡できることから、これらを原薬とする医薬品の研究開発に利用されています。
ここでは、CD 分光法の特長を活かして LNP を用いて粒子化された mRNA の熱に対する安定性を評価したアプリケーションをご紹介します。
1) V. Gote, PK. Bolla, N. Kommineni, A. Butreddy, PK. Nukala, SS. Palakurthi, W. Khan: Int J Mol Sci., 31, 2700 (2023). DOI: 10.3390/ijms24032700
2) M. Metkar, C.S. Pepin, M.J. Moore: Nat Rev Drug Discov, 23, 67 (2024). DOI: 10.1038/s41573-023-00827-x
3) T. Yoshida, T. Yamashita, T. Yamamoto, N. Ohoka, K. Itaka, H. Akita, F. Takeshita, J. Mineo, S. Tsujihata, T. Yamaguchi, E. Uchida, T. Inoue,: PMDRS, 54, 4, 3222 (2023).
4) M. Kloczewiak, JM. Banks, L. Jin, ML. Brader: Mol Pharm., 4, 2022 (2022). DOI:10.1021/acs.molpharmaceut.2c00092
5) A. Micsonai, É. Bulyáki, J. Kardos: Methods in molecular biology (Clifton, N.J.), 2199, 175–189 (2021).
6) J. Kypr, I. Kejnovská, D. Renciuk, M. Vorlícková: Nucleic Acids Res., 37, 1713 (2009). DOI: 10.1093/nar/gkp026.