技術情報 アプリケーション Application Data 140-AT-0221
FTIR Application Data

真空対応ATRを用いた液体のテラヘルツ(THz)測定

Introduction

中赤外領域より波長の長い領域である遠赤外領域はテラヘルツ領域とも呼ばれ、近年では薬剤の結晶多形や半導体デバイスなどの材料評価、無機顔料を含む考古学研究などに利用され注目されています(参照:FT/IR Application data 170-TR-0219)。遠赤外領域の光(テラヘルツ波)は、液体中における生体分子の機能発現や構造変化の鍵を握っているとされる水素結合やファンデルワールス力、疎水性相互作用の吸収エネルギーに対応しています。遠赤外領域の光を用いることで、これまで理論計算が中心であったこれらの作用に関する重要な情報を実験的に得られるとして期待されています。

遠赤外領域の測定には透過測定が広く用いられてきましたが、遠赤外領域の吸収が大きい試料などの測定は困難でした。水溶液中の生体分子など液体の試料においても、溶媒の吸収の影響を避けるためにセルの厚さを10µm程度以下にして測定しなければならず、ゲル状物質や生肉といった生体試料を直接測定するのは困難でした。一方、ATR測定はプリズムと試料を密着させた状態で、プリズム面で全反射する光が試料側に僅かにもぐりこむ現象を用いるものであり、液体やゲル状物質のように密着性の良い試料は、プリズム上に試料を置くだけで簡単に測定できます。遠赤外領域では、中赤外領域以上に水蒸気による影響が顕著に現れるため、水蒸気の影響を軽減するために干渉計や試料室を真空状態で測定することが極めて有効です。しかし、真空状態では試料室を減圧すると液体が揮発してしまうため、大気圧状態のように試料を通常のプリズム上に載せてのATR測定はできません。今回測定に使用したATR-500/Miに装着可能なTHz(遠赤外)用液体3回反射ATRホルダは、液体注入部を密閉できる構造となっているため、試料室を減圧しても液体が揮発することなく、簡単にATR測定を行うことが可能です。

今回は種々の電解質水溶液の水和とイオンの関係を検証するべく、遠赤外領域対応のFT/IR-6300FVおよびTHz(遠赤外)用液体3回反射ATRホルダを用いて、純水や塩を添加した水溶液のATR測定を真空状態で行いましたのでご報告いたします。

Keywords
テラヘルツ、水溶液、水素結合、遠赤外、ATR
アプリケーションデータ番号
140-AT-0221
発行
2010年