技術情報 アプリケーション Application Data 040-AN-0009
Raman Application Data

ラマン分光法による朱肉の識別

Introduction

ラマン分光法は、赤外分光法と同様に分子振動から分子構造を解析する手法です。赤外分光法に対する利点としては、より微小領域の測定ができる、容易に低波数領域まで測定できる、試料を非破壊・非接触で測定できる、試料内部の情報が選択的に取得できるなどがあります。これらの優位性を背景に化学、半導体や医薬品分野の分析で幅広く利用されていますが、最近では犯罪捜査の分野への応用が期待されるようにもなってきました。例えば、非破壊・非接触で分析可能な点を活かして、微量な証拠品を多角的に鑑定する場合や、毒劇物や不正薬物を容器越しに同定する場合などに利用されています。

このように、犯罪捜査においても活躍の場を拡げつつあるラマン分光法ですが、分析するにあたってはサンプルからの蛍光による妨害とレーザによるサンプルへのダメージに注意が必要です。蛍光を回避する有効な方法としては、励起波長の変更と空間分解能の向上があります。具体的には、励起波長を通常使用される532nmより長波長の785nmや1064nmに変更すると、一般に蛍光が減少します。また、レーザビーム径の絞り込みや共焦点光学系を採用すると、xy方向のみならずz方向の空間分解能が向上するため周囲からの蛍光の影響を排除できます。また、レーザによるダメージを避けるには、減光器によって試料に照射する最適なレーザ強度を設定することが重要になってきます。

ここでは、日本国内の書類に欠かせない捺印された印影をラマン分光法によって識別した事例についてご報告いたします。例えば、捺印には辰砂などの無機系顔料を含む朱肉や有機系顔料を用いたインクが一般的に使用されますが、ラマンスペクトルの低波数領域に着目すると両者を容易に識別できます。このように、使用された朱肉・インクが特定できれば、有用な捜査情報につながると考えられます。

Keywords
朱肉、インク、無機顔料、有機顔料、励起波長
アプリケーションデータ番号
040-AN-0009
発行
2012年
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