ラマン分光法は、レーザーを照射してその散乱光を検出することで、試料の分子振動の情報を非破壊かつ非接触で取得できる優れた分析手法です。一般的に対象成分の検出には数パーセント以上の濃度で試料中に含まれていることが必要ですが、含有量が少ない成分の分析が求められることもあります。
着色プラスチックに含まれる色素の分析を例に挙げると、顔料の含有率が約 1 % 程度と少ないのに対し1)、残りの約99 %を占める樹脂に由来するラマン散乱の信号強度が大きいことがほとんどです。このため、顔料に関する情報は樹脂由来の情報に埋もれてしまい、通常は検出が困難です。
そこで今回は、「共鳴ラマン散乱」という現象を利用することで、通常のラマン分光法では検出が困難な着色樹脂中に微量に含まれる顔料成分を測定する選択的に検出した事例についてご紹介します。
共鳴ラマン散乱は、励起波長のエネルギーが対象成分の電子遷移のエネルギーに近い場合に起こる現象で、通常のラマン散乱に対して場合によっては著しく信号強度が増強されます。増強の程度は10000倍を超えることもあります。このため、測定に使用するレーザーの励起波長を適切に選択することで、特定の微量成分を選択的に検出できる場合があります。ただし、共鳴現象による感度増強は特定の振動モードのみで起こるため、共鳴ラマン散乱スペクトルと非共鳴条件で得られたスペクトルは形状が異なる点に注意が必要です。
この現象を活用した事例として、卵黄や緑黄色野菜をはじめとした生体由来試料にごく微量に含まれるカロテノイドを検出2)したり、構造の異なるカーボンナノチューブを選択的に分析するa)といったものがあります。
1) 化学工業日報:企画記事 ”顔料 技術力生かし高機能品開発” https://chemicaldaily.com/archives/376823,(2024年3月29日閲覧).
2) M. Tsuboi, K. Tamura, R. Kitanaka, H. Oka, K, Akao, Y. Ozaki: Appl. Spectrosc., 78, 186 (2024). DOI: 10.1177/00037028231219026
a) 170-AN-0001 ラマン分光法による単層カーボンナノチューブ(SWNT)の評価