循環型社会の確立へ向けて、廃棄された材料の再活用が求められている。高分子材料は海洋汚染をはじめとした種々の環境問題を引き起こしているため、使用後の回収を徹底し、再資源化する循環モデルの確立が強く求められている1)。また、既存の高分子材料の多くは化石資源を原料とすることから、これら有限の資源を節約する意味でも、高分子材料の循環は重要である。
高分子の資源循環方法には、メカニカルリサイクルとケミカルリサイクルの2つが存在する。メカニカルリサイクルは、高分子材料を融解・再成型して活用する方法である2)。この方法は、熱可塑性樹脂全般に適用でき、環境負荷や経済的負荷が低い点で優れている3)。しかしながら、分子構造の劣化による品質低下を避けられないうえ、高分子複合材料への適用が困難という、根本的な課題も存在する4)。ケミカルリサイクルは、高分子をモノマーあるいはその原料へ分解し、再重合することで新たに高分子を得る手法である5)。分子レベルでリサイクルが行われるため、再生品でも新品と同等の品質が保たれることから、恒久的な資源循環法として期待されている。例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)のエステル結合を加水分解もしくは加アルコール分解すると、モノマーを再生することができる6)。PET のように切断が容易な‘弱い’結合を主鎖に持つ高分子に対しては、ケミカルリサイクルの技術が確立されつつある5)。
ところで、世界で最も生産されている高分子は、ビニル化合物の付加重合によって合成されるビニルポリマーである7)。それゆえ、ビニルポリマーのケミカルリサイクルが強く望まれるが、その実現には課題が残っている。例えばポリエチレンやポリプロピレンは、化学的に安定な炭素-炭素単結合を主鎖に持つので、その切断には過酷な条件を要する8)。一方、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)は定量的に熱分解して、モノマーを再生することが知られている9)。この分解は、重合の逆反応、すなわち高分子鎖の末端から段階的にモノマーが遊離する解重合反応に基づいている。
解重合はビニルポリマーのケミカルリサイクルを実現する有望な手段であるが、いくつかの課題も存在する。まず、重合と解重合の可逆反応に基づくため、重合しやすいモノマーほど、解重合しにくいポリマーを与える構図になる9)。そして、解重合を促進するために、高温、高希釈、高真空などの条件で平衡を制御する必要がある。また、活性種となるラジカルの発生は高分子鎖の末端構造に依存するが、工業的に広く使用されるフリーラジカル重合では、末端基を一様に制御することができない。さらに、これらの課題が克服された場合でも、解重合過程で副反応が生じる問題がある。こうした事情から、解重合により定量的にモノマーを再生できるビニルポリマーは、PMMA など一部の例外に限られている。フリーラジカル重合によって合成でき、穏和な条件でモノマーを再生するビニルポリマーが理想ではあるが、重合/解重合の可逆過程に基づく反応設計では、その実現は本質的に困難であると言わざるを得ない。
著者らは、重合 → 分解 → モノマー再生の多段階プロセスを利用した、不可逆反応に基づく新しいビニルポリマーのケミカルリサイクル法を提唱している。本稿ではその具体例について、最近の成果を中心に報告する。
1) Environment Assembly of the United Nations Environment Programme, “End plastic pollution: towards an international legally binding instrument.”, Nairobi, 2022.
2) Schyns, Z. O. G.; Shaver, M. P. Macromol. Rapid Commun. 2021, 42, 2000415.
3) Uekert, T et al. ACS Sustain. Chem. Eng. 2023, 11 (3), 965.
4) Zink, T.; Geyer, R. J. Ind. Ecol. 2019, 23 (3), 541.
5) Worch, J. C.; Dove, A. P. ACS Macro. Lett. 2020, 9 (11), 1494.
6) 大河内 隆.; 西村 弘. 繊維学会誌 2022, 78 (3), 122.
7) Plastics Europe, “Plastics – the fast Facts 2023”, 2023.
8) Soni, V. K.; Singh, G.; Vijayan, B. K.; Chopra, A.; Kapur, G. S.; Ramakumar, S. S. V. Energy Fuels 2021, 35 (16), 12763.
9) Lohmann, V.; Jones, G. R.; Truong, N. P.; Anastasaki, A. Chem. Sci. 2024, 15, 832.