2020年のコロナウイルスの全世界的な蔓延以降、全世界的に半導体不足が叫ばれている。この半導体不足の理由はいくつかあるが、大きな理由としてテレワークやイーコマースの急速な普及によるデータセンタ向けサーバや5G基地局向け装置の需要拡大、さらにはCO2排出ゼロを目指した自動車の電動化に伴う半導体需要の急拡大がある。これにより最近ではパワー半導体の需給も逼迫していると言われている。ある会社の調査結果によると、パワー半導体市場の大部分は今後10年にわたってもSi半導体が占めており、例えば、2030年では全パワー半導体市場に占めるSi半導体の比率は90 %以上であると予測されている1)。
現在、半導体パワーデバイスはSiからなるMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が普及しているが、すでにその材料の持つ性能限界に近づいている。したがって、Siパワーデバイスの限界をはるかに超える低損失のパワーデバイス実現への期待からGaN、SiC、β-Ga2O3などのワイドギャップ半導体を用いたパワーデバイスが注目されている1)。
しかし、車載用等のパワー半導体は高温で動作することがあるため、半導体と電極間の熱膨張率の差により半導体界面に熱応力が働くことが知られており、それにより闘値変動や機械的な剥離、クラック等、信頼性低下の要因として指摘されている。これらは、パワーエレクトロニクス素子設計上、重要な問題とされている2)。我々は、n形GaN結晶において高温領域での熱応力と電子物性の関係を解析し、高温になるほど半導体界面の比抵抗が増加することを報告した3)。
そこで本研究では、最近開発が進む縦型GaN-SBD4)を想定し、高温状態のオーミック電極(Ti/Al/Au)付n型GaN結晶の電極界面における熱応力と電子物性(電子密度、移動度、比抵抗)を顕微ラマン分光法により求め、熱応力の温度依存性をFEMの解析結果と比較した。
本研究では、MOCVD法で作成されたn形GaN結晶(寸法:10 mm×10.5 mm×0.35 mm(c軸):純度99.99%)のGa面にTi/Al/Au円電極(各膜厚:50/200/200 nm, 各直径:1 mm)を真空蒸着後にArガス流中300 °C、10分間の処理を行った。このTi/Al/Auコンタクトは、van der Pauw法によるArガス雰囲気中のホール効果測定により良好なオーミック性であることを確認した。本研究では、NRS4100(日本分光)を用いた高温ラマン分光により、室温から200 °Cにおいて、EH2モードを用いて熱応力解析を行った。ラマンスペクトル測定領域は、電極中央のxy平面(10 µm×10 µm)とし、半導体表面(電極遠方)の面測定をした。次にn型GaN結晶の屈折率を考慮して、半導体電極界面(電極近傍)にz方向の位置を移動して面測定をした。2軸の熱応力は、電極近傍と電極遠方の中心振動数差のxy平面の平均値Δƒに2軸応力係数4), 5)を乗じて求めた。
1) 岩室 憲幸:次世代パワー半導体の開発・評価と実用化 p.59 (2022)
2) 須田潤: “顕微ラマンイメージングと第一原理計算による高温状態の電極付4H-SiC結晶の残留応力分布と電子密度の挙動の観察”, Jasco Report, Vol.60, No.1, 2018
3) M. Kawase, J. Suda Vibrational Spectroscopy vol.118 pp.103331-1~10331-7 (2022)
4) 吉本 晋, 岡田 政也, 三橋 史典, 石塚 貴司, 上野 昌紀: “低転位GaN基板を用いた縦型ショットキーバリアダイオードの高速スイッチング特性”, SEIテクニカルレビュー第186号, 2015年, pp.31-35
5) 播磨弘: “GaNおよび関連窒化物のラマン散乱分光”, J. Soc. Mat. Sci., Jpn, Vol51, No.9, pp.983-988, Sep.2002
