デンドリマーは規則的な分岐構造をもつ合成高分子であり、様々な分野で機能性材料として利用するための研究が行われてきた。一般的な合成高分子は重合によってモノマーを連結することによって作製されるが、デンドリマーは、核となるコア分子から段階的に分岐鎖を成長させていくため、分子量や末端数を精密に制御することができる。そして、末端官能基や内部空間を利用して、様々な生理活性物質を共有結合もしくは非共有結合を介して導入することできるため、薬物運搬体として利用できる1)-4)。薬物運搬体としては、デンドリマーだけでなく、分子集合体であるリポソームや高分子ミセルなども研究されている。デンドリマーは単分子ナノ粒子であり、その粒径は数 nmで、リポソーム・ミセルと比較すると小さく、蛋白質と同程度の粒径のナノ粒子である。したがって、デンドリマーは他の薬物運搬体とは異なる機能を発現することが期待される。本稿では、デンドリマーに様々な表面修飾を施すことで合成してきた機能性薬物運搬体の開発に関する研究成果について紹介する。
ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマーは市販されており、最も広く研究が進められているデンドリマーである1)-4)。また、ポリエチレングリコール(PEG)は高い水溶性と生体適合性を有する高分子であり、薬物運搬体のナノ粒子の表面修飾に広く利用されている。著者らは、分子量2000のPEGで修飾したPAMAMデンドリマーを合成し、これに様々な薬物や生理活性物質を担持してきた4)-8)。ここで、デンドリマーの担持能を見積もるためには、担持された物質を分離・回収する必要がある。デンドリマーに低分子を共有結合によって担持する場合、分子量差が大きいので、透析や限外濾過で分離できる。一方、非共有結合で担持する場合は、デンドリマーと担持物質の溶解性の違いを利用することで分離できる。例えば、担持物質が水に難溶である薬物の場合、PEG修飾デンドリマーは水に溶解するため、水に可溶な薬物はPEG修飾デンドリマーに担持されていると考えられる。そして、薬物の吸光特性から事前に濃度と吸光度に関する検量線を作成し、デンドリマー担持後の水溶液の吸光度から検量線を用いて薬物濃度を算出し、デンドリマー濃度に対する商をとることで、デンドリマー1分子の担持量を計算することができる。この方法では、デンドリマーに結合前後で薬物の吸収スペクトルが変化しないこと、デンドリマー自体の吸光が薬物の吸光と重複しないことを確認する必要がある。デンドリマーの吸光と薬物の吸光が重複する場合は、デンドリマーの吸光度を差し引いて計算する。非共有結合でデンドリマーに物質を担持する場合は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を利用して薬物の担持量を見積もることもできる。まず異なる濃度のPTX溶液のHPLC解析から、薬物濃度とピーク面積の検量線を作成しておく。メタノール中でPTXをデンドリマーに担持させた後、溶媒を除去して、純水を加え、可溶化成分をHPLC解析することで、デンドリマーに担持された薬物濃度を見積もり、デンドリマーあたりに担持された薬物数を算出した。PAMAMデンドリマーの場合、内部に第三級アミノ基が存在するため、アニオン性の物質を効率よく担持することができることが明らかになった4)。
効果的なDDSを実現するには、標的部位にデリバリーした後、デンドリマーから薬物が放出される必要がある。共有結合で担持する場合には、薬物がデンドリマーから放出される機構が有用である。そこで、酸性条件で開裂するヒドラゾン結合や酵素によって分解するリンカーなどを介して薬物を結合したデンドリマーが合成された。ヒドラゾン結合は細胞がデンドリマーをエンドサイトーシスで取り込んだ後に、エンドソーム内の酸性環境で切断されるため、細胞内で薬物を放出することができる8)。また、がん細胞がもつカテプシンBで分解するリンカーを使うことで、がん細胞内部で薬物を放出することもできる9)。一方、非共有結合で薬物を担持する場合は、デンドリマー内に安定に保持することが求められる。アニオン性の化合物はPAMAMデンドリマー内部の第三級アミノ基と静電相互作用することで担持されるが、生体内では高イオン強度であり、静電相互作用が減弱するため、親水性のアニオン性化合物は容易に放出されてしまう5)。そこで、ジスルフィド結合ネットワークや疎水性シェルを導入することなどで、内包された薬物の担持能を向上させる工夫が施された10), 11)。
金ナノ粒子はX線を散乱するため、X線CTの造影剤として利用できる。また、金ナノ粒子は局在表面プラズモン共鳴によって520 nm付近に特徴的な光吸収を示すため、比色センサーとして利用できるだけでなく、光照射によって発熱するため光温熱療法に用いることもできる。さらに、触媒活性を示すためナノ酵素としての利用も可能である。我々は、様々なデンドリマーをナノ鋳型として用いて金ナノ粒子を作製することで、内部に金ナノ粒子を担持したデンドリマーを作製した7), 12), 13)。まず、62つの内部三級アミノ基をもつ第4世代(G4)のPAMAMデンドリマーに対して55等量の塩化金酸を加えることで、デンドリマー内部でイオン対を形成させ、続いて、水素化ホウ素ナトリウムで還元して金ナノ粒子を作製した。金ナノ粒子の生成は、紫外可視(UV-Vis)吸収スペクトルで確認することができる。また、その粒径によって光吸収特性が変化するため、UV-Visスペクトル変化で、粒径変化を追跡することもできる。なお、デンドリマーをナノ鋳型として金ナノ粒子を作製する場合は、金ナノ粒子の粒径は2 nm程度と小さいため、520 nm付近に極大吸収は示さず、400 nmから600 nmにかけて右肩下がりのブロードなスペクトルが確認される。金ナノ粒子の生成は透過型電子顕微鏡(TEM)によっても確認され、Cryo-TEMやX線光電子分光法(XPS)の表面分析によってデンドリマー内部で金ナノ粒子が生成したことを確認している14)。
1) D.A.Tomalia, A.M.Naylor, W.A.Goddard,:Angew.Chem.Int.Ed.Engl., 29, 138(1990)
2) S.Svenson, D.A.Tomalia:Adv. Drug Deliv. Rev., 57, 2106(2005)
3) D.A.Tomalia, L.S.Nixon, D.M.Hedstrand:Biomolecules, 10, 642(2020)
4) 児島:化学工業, 62, 431(2011)
5) C.Kojima, K.Kono, K.Maruyama, T.Takagishi:Bioconj.Chem., 11, 910(2000)
6) C.Kojima, Y.Toi, A.Harada, K.Kono:Bioconj.Chem., 18, 663 (2007)
7) Y.Haba, C.Kojima, A.Harada, T.Ura, H.Horinaka, K.Kono:Langmuir, 23, 5243(2007)
8) K.Kono, C.Kojima, N.Hayashi, E.Nishisaka, K.Kiura, S.Watarai, A.Harada:Biomaterials, 29, 1664 (2008)
9) C.Kojima, K.Saito, E.Kondo:Res.Chem.Intermediates, 44, 4685-4695 (2018)
10) C.Kojima, Y.Haba, T.Fukui, K.Kono, T.Takagishi:Macromolecules, 36, 2183 (2003)
11) K.Kono, T.Fukui, T.Takagishi, S.Sakurai, C.Kojima:Polymer, 49, 2832 (2008)
12) 児島:化学工業, 67, 250(2016)
13) D.Fukushima, U.H.Sk, Y.Sakamoto, I.Nakase, C.Kojima:Coll.Surf B, 132, 155(2015)
