核酸分子の一つである DNA は、生体において遺伝情報の記録媒体として利用されることでよく知られている。DNA が相補的な塩基配列と二重らせん構造を取ると、DNA は糖リン酸骨格に由来する負電荷に富んだ長いポリマー様の分子となる。例えばヒトゲノムは、約30億塩基対もの DNA でできている。そのような長い DNA はヒストンなどのタンパク質によって巻き取られることで、普段は効率的に細胞核内にてパッキングされている。
さて、タンパク質合成に代表される遺伝情報の発現時には、二重らせん構造をもつ DNA のパッキングの一部が緩み、まずは二重らせん構造が、そしてそれが解離した一本鎖構造が露出する。二重らせん構造が決定されて以降の生命科学は、この「一本鎖」となった核酸分子が生命現象を司ることを示してきた。まず、一本鎖 DNA または RNA は、分子内の一部に相補的な塩基配列がある場合、二本鎖と一本鎖が組み合わさり“幹(Stem)”と“輪(Loop)”ができる「ステムループ構造」という立体構造を形成することができる。また、塩基配列内に連続したグアニン塩基が最低4箇所以上存在するとき、「グアニン四重鎖構造」という立体構造をとることがある。グアニン四重鎖構造とは、4つのグアニンがフーグスティーン塩基対という水素結合形成によりできる平面が層状に積み重なることでできる核酸構造である。これら「二重らせんではない」核酸の立体構造は、遺伝子発現や細胞寿命を制御することが知られている。
さて、20-100塩基長程度の「短く」、「一本鎖」の DNA または RNA を合成してみると、核酸はさらに自由に立体構造を形成する。時にはステムループ構造とグアニン四重鎖構造が組み合わさった形すら取りうる1), 2)。このような様々な立体構造をもつ核酸のいくつかは、分子に対して強い結合親和性を示すことがある。そのような核酸は「アプタマー」と呼ばれている3), 4)。アプタマー、特にDNAから成る DNA アプタマーは、抗体に匹敵する結合能に加え合成・化学修飾の容易さから診断薬などへの応用が期待されるリガンドである。我々は、特にバイオセンサーへの応用を目指し、様々な標的分子に結合する DNA アプタマーを開発してきた。
DNA アプタマーを開発し、評価し、目的の結合能を示すよう改良していくためには、アプタマーの立体構造に関する情報を得ながら研究を進めていくことが望ましい。しかし、アプタマーの結合能の基となる構造の多様さは、裏を返せば構造同定の難しさにつながっている。ステム構造一つとって見ても、ステムを形成する塩基配列が違えばその全体構造は変化する上、グアニン四重鎖構造に至っては塩基配列からの構造予測手法は存在しない。NMR などの手法でアプタマーの立体構造を決定することは可能であるが、試料の調製や装置の準備などの面で容易とは言えない。
円二色性(Circular Dichroism: CD)スペクトルは、物質の吸収波長領域における左右円偏光の吸収度合いに差がある場合に生まれる楕円偏光を、波長に応じてプロットしたものである。生体高分子のひとつである DNA は、UV 領域において特徴的な CD スペクトルを生じること、そして CD スペクトルが核酸の立体構造の変化に起因して変化することが知られている。この特徴を生かして、CD スペクトルは医薬品を目指した核酸の分子設計に応用されている5)。無論、アプタマーの開発研究においても CD スペクトル測定は構造推定のための強力な武器になっている。そこで本論文では、CD スペクトル解析を活用した我々のアプタマー開発研究の実例を解説したい。
1) Ikebukuro, K., Okumura, Y., Sumikura, K. & Karube, I. A novel method of screening thrombin-inhibiting DNA aptamers using an evolution-mimicking algorithm. Nucleic Acids Res 33, e108 (2005).
2) Warner, K.D. et al. Structural basis for activity of highly efficient RNA mimics of green fluorescent protein. Nat Struct Mol Biol 21, 658-663 (2014).
3) Ellington, A.D. & Szostak, J.W. Invitro Selection of Rna Molecules That Bind Specific Ligands. Nature 346, 818-822 (1990).
4) Tuerk, C. & Gold, L. Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment - Rna Ligands to Bacteriophage-T4 DNA-Polymerase. Science 249, 505-510 (1990).
5) 櫻井和郎 核酸医薬と円二色性. Jasco Report 62, 4 (2020).
