我々はシリカ・アルミナの一種であるゼオライトを用いることによって創り出される交換イオンの新奇な電子状態に興味をもち、その新奇な電子状態によって引き出される特異な吸着現象や反応特性について研究を行っている 2)-9)。これらのデータを基に、無機固体物質による新奇電子状態創出のメカニズムを解明し、得られた知見を“物質開発へとフィードバックさせる”ことや“新しい無機化学分野の開拓”をめざしている。
さて、これらの研究過程で赤外線(IR)分光法は固体表面で起こっている現象解明の際、極めて感度が高く、電子状態に起因する現象に関する情報を得るための有益な方法の一つであり、一般的に中赤外線領域の測定が行われている。その理由は、その領域が最も取り扱いやすく、吸着分子や反応分子の情報が得やすいことによる。固体表面で起こる現象に関する研究において、この測定方法を利用する場合には、高温での真空排気による固体表面からの不純物(典型的には大気中で吸着・反応した水や二酸化炭素などである)を除去し、その後 in-situ で種々のターゲットである吸着・反応分子を相互作用させる必要がある。さらに、測定する際には透過率をコントロールするために、試料量(反応ガスを含めて)を適切な量に保つ必要があると共に、透過測定では測定試料(self-supporting sample)を自立保持する必要もある。それらの条件を克服することが極めて困難な場合もある。それ故、粉体の試料を用いた測定では、透過法や拡散反射法などを使い分けることとなる。一方、中赤外領域の測定に加えて、近赤外線領域、遠赤外線領域などの測定からも重要な情報が入手できる。近赤外線領域については、大阪府立大学の竹内先生により固体触媒試料に関する研究例がJASCOレポートにも報告されているので、ここでは省略する10)。遠赤外線領域を利用した研究では無機固体試料のバルクの結合情報などの入手が可能となる(この場合には、in-situ 測定はそれほど必要が無いものと考える)11)。たとえば、JASCOのFTIR-6600FV型の分光器(遠赤外線領域測定仕様)を用いると、原理的には検出器をボロメーター、ビームスプリッターをマイラー(50 µm)、高圧水銀光源、ポリエチレン(PE)窓板を使用すれば 10 cm-1 程度までの測定が可能となる。また、検出器DLATGS (Deuterated L-Alanine Tri-Glycine Sulfate)およびビームスプリッターとして広帯域マイラーをもちいれば、30 cm-1程度までの測定が可能となる。しかし、前述した固体表面の吸着・反応過程の測定を、この領域について、in-situ 条件下での実験を実行しようとすると、以下に述べるような困難に直面する。
ゼオライト系におけるfar-IR領域の研究について、1980から1990年代には大気条件で、盛んに測定がなされているけれども、近年はあまり見かけない12)。真空中での測定がネックになっているかもしれない13)。また、far-IR領域の吸収バンドの帰属を行うためには、計算化学的手法との併用が不可欠である。ゼオライト試料について遠赤外線領域の研究を行うためには、このような問題点があるため、加熱処理した試料に関する in-situ 条件下での測定は、解決すべき問題点の多い、難度の高い研究となる。しかし、以下に述べるように、極めて重要な情報が得られる点を考慮すると、これらの困難を克服して、開拓すべき研究方法である. 極最近、東工大の近藤先生達のグループによってゼオライトについて、in-situ far-IR測定の報告がなされている14)。このレポ-トでは、遠赤外線領域の測定で得られた我々の研究成果を紹介したい1)。
1) A. Oda, S. Hiraki, E. Harada, I. Kobayashi, T. Ohkubo, Y. Ikemoto, T. Moriwaki and Y. Kuroda: J. Mater. Chem. A, 9, 7531-7545 (2021).
2) Y. Kuroda, S. Konno, K. Morimoto and Y. Yoshikawa: J. Chem. Soc., Chem. Commun., 18-20 (1993).
3) Y. Kuroda, Y. Yoshikawa, S. Emura, R. Kumashiro and M. Nagao: J. Phys. Chem. B, 103, 2155-2164 (1999).
4) Y. Kuroda, T. Okamoto, T. Mori and Y. Yoshikawa: Chem. Lett., 33, 1580-1581 (2004).
5) A. Oda, H. Torigoe, A. Itadani, T. Ohkubo, T. Yumura, H. Kobayashi and Y. Kuroda: Angew. Chem. Inter. Ed., 51, 7719-7723 (2012).
6) A. Oda, H. Torigoe, A. Itadani, T. Ohkubo, T. Yumura, H. Kobayashi and Y. Kuroda: J. Phys. Chem. C, 117, 19525-19534 (2013).
7) A. Oda, T. Ohkubo, T. Yumura, H. Kobayashi and Y.Kuroda: Inorg. Chem., 58, 327-338 (2019).
8) A. Oda, T. Ohkubo, T. Yumura, H. Kobayashi, and Y. Kuroda: Phys. Chem. Chem. Phys., 19, 25105-25114 (2017).
9) H. Torigoe, T. Mori, K. Fujie, T. Ohkubo, A. Itadani, K. Gotoh, H. Ishida, H. Yamashita, T, Yumura, H. Kobayashi and Y. Kuroda: J. Phys. Chem. Letters, 1, 2642-2650 (2010).
10) M. Takeuchi: Jasco Reports, 62 (2), 50-57 (2020).
11) H. Okamura, Y. Ikemoto, T. Moriwaki and T. Nanba: Jpn. J. Appl. Phys., 56, 05FA11 (2017).
12) M. D. Baker, G. A. Ozin and J. Godber: Catal. Rev. Sci. Eng., 27, 591-651 (1985).
13) J. Baumann, R. Beer, G. Calzaferri and B. Waldeck: J. Phys Chem., 93, 2292-2302 (1989).
14) R. Osuga, T. Yokoi and J. N. Kondo: Microporous Mesoporous Mater., 305, 110345 (2021).
