地球温暖化による気候変動により大きな災害が増えている。その原因として、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料の燃焼を利用して電気を得る火力発電所から発生するCO2の大気への放散により、大気中のCO2濃度が増大していることが指摘されている。地球温暖化の解決策の一つは、火力発電の代わりに、太陽光発電や風力発電などから得ることができる電気エネルギーを利用することである。太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する素子は太陽電池とよばれている。現在、シリコン半導体を使って製造した太陽電池が実用化されているが、軽量で、フレキシブルな太陽電池の材料として、高分子やペロブスカイトが期待を集めている。本稿では高分子太陽電池を取り上げる。高分子太陽電池は2つのノーベル化学賞に起源をもつ;1996年ノーベル化学賞「炭素フラーレン(C60)の発見」(受賞者:R.F. Curl, Jr., H.W. Kroto, R.E.Smalley)と2000年ノーベル化学賞「導電性高分子の発見と開発」(受賞者:A.J. Heeger, A.G. MacDiarmid,H. Shirakawa)である。A.J. Heeger博士らにより、導電性高分子とC60誘導体の混合物(バルクへテロ接合とよばれている)が太陽電池の活性物質であることが報告された1)。ポリチオフェンの誘導体である位置規則性ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HTと略す)は導電性高分子であり、有機電子デバイスの代表的材料で、多くの基礎研究が行われた。n-ヘキシル基の位置規則性があり、有機溶媒に対する溶解度が高く、結晶性の高い試料を作製することができる。[6,6]-phenyl-C61-butyric acid methyl ester(PCBMと略す)はC60の誘導体であり、有機溶媒に対する溶解度が高い。P3HTとPCBMのバルクヘテロ接合は高分子太陽電池の代表的な活性物質である2, 3)。高分子太陽電池に関して、これまでに多くの基礎・応用研究が行われ、現在、光電変換効率は18%程度まで向上した4, 5)。この変換効率は、ペロブスカイト太陽電池には及ばないが、応用面からは、高分子太陽電池に利点が多い。太陽電池では、太陽光により正電荷(正キャリヤー)と負電荷(負キャリヤー)が分離し、それぞれが電極まで到達すると、電池として動作する。高分子半導体では、光誘起電荷分離・移動機構がシリコン半導体と異なっており、励起状態やポーラロンなど、シリコン半導体ではない概念が関係している。赤外分光法では、化合物・化学種・官能基の同定が可能であり、かつ、光照射などの外部刺激によるダイナミクスの計測が可能である6)。本稿では、ステップ走査型FT-IR分光計を利用したマイクロ秒時間分解赤外分光法による、P3HT:PCBMバルクへテロ接合膜の電荷再結合過程の研究例を紹介する。
1) G. Yu, J. Gao, J.C. Hummelen, F. Wudl, and A.J. Heeger: Science 270, 1789-1791 (1995).
2) F. Padinger, R.S. Rittberger, and N.S. Sariciftci: Adv. Funct. Mater. 13, 85-88 (2003).
3) G. Li, V. Shrotriya, J. Huang, Y. Yao, T. Moriarty, K. Emery, and Y. Yang: Nat. Mater. 4, 864-868 (2005).
4) Q. An, J. Wang, W. Gao, X. Ma, Z. Hu, J. Gao, C. Xu, M. Hao, X. Zhang, C. Yang, and F. Zhang: Sci. Bull. 65, 538-545 (2020).
5) Q. Liu, Y. Jiang, K. Jin, J. Qin, J. Xu, W. Li, J. Xiong, J. Liu, Z. Xiao, K. Sun, S. Yang, X. Zhang, and L. Ding: Sci. Bull. 65, 272-275 (2020).
6) 古川行夫編著:赤外分光法, 講談社, 2018.
