技術情報 Jasco Report 化学修飾とラマン分光法を用いた核酸構造解析
Jasco Report

化学修飾とラマン分光法を用いた核酸構造解析

青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 田邉 一仁
Introduction

DNA や RNA といった核酸は、多様な高次構造を形作り、機能を発現する。一般によく知られている構造は、いわゆる二重らせん構造であり、二本のポリヌクレオチド鎖が規則的に絡み合う非常に美しい高次構造である。実は核酸は、様々な高次構造を形成し、多様な機能を発現する。例えば、三重らせん構造や四重鎖構造などによる遺伝子発現の制御がその典型的な例である1)-3)

DNA の機能や人為的な機能化を考えるうえで、任意の塩基配列をもつオリゴマーがどの高次構造を形成しているかを判別することやその形成過程を知ることは非常に重要である。しかし、オリゴマーの塩基配列や高次構造を調べることは困難な時がある。特に、様々な物質が混在するとき、判断し難い。こうした核酸構造解析が持つ課題を解決するために、筆者は、化合物が発するラマン散乱光計測に着目した4)。ラマン散乱光とは、化合物が持つ官能基に特有の分子振動に起因した散乱光で、分子の化学構造に対して鋭敏に応答する。また、ラマン散乱光は細胞内からも測定することも可能であり、官能基を選ぶことによって、様々な物質が混在するような系であっても、シグナルを得ることができる。さらに、そのシグナルはシャープであり、一度に多数のシグナルの解析を実現できる。これまでに、核酸構造解析や配列解析は主に蛍光分光法を用いて行われてきた。蛍光色素で標識された DNA が数多く開発され、その高い感度を活かし、検出・同定がなされてきた5), 6)。しかし、蛍光法に使用するための蛍光色素のサイズが比較的大きいため、核酸そのものの機能に影響を与えうること、シグナルがブロード化することが多く、多数のシグナルを同時に検出するには制限があることなど、課題も多い。一方、ラマン分光法は感度が低さが解決すべき課題として挙げられるものの、同時解析やシグナルの鋭敏さで、蛍光法の課題を克服し得る。このような背景から、筆者はラマン散乱光計測に基づく核酸構造解析法の開発に近年取り組んできた。本稿では、その一部ではあるものの代表的な研究2例を紹介したい。

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1) M. D. Frank-Kamenetskii, and S. M. Mirkin: Annu. Rev. Biochem. 64, 65-95 (1995).
2) J. J. King, K. L. Irving, C. W. Evans, R. V. Chikhale, R. Becker, C. J. Morris, C. D. Peña Martinez, P. Schofield, D. Christ, L. H. Hurley, Z. A. E. Waller, S. Iyer, N. and M. Smith: J. Am. Chem. Soc., 142, 20600-20604 (2020).
3) P. Sengupta, D. Bose, and S. Chatterjee: ChemBioChem, 22, 1517-1537 (2021).
4) P. Larkin: Infrared and Raman Spectroscopy; Elsevier, (2011).
5) M. Zeraati, D. B. Langley, P. Schofield, A. L. Moye , R. Rouet, W. E. Hughes, T. M. Bryan, M. E. Dinger and D. Christ: Nat. Chem., 10, 631-637 (2018).
6) M. Mata and N. W. Luedtke: J. Am. Chem. Soc., 137, 699-707 (2015).