生命の最小単位である「細胞」は、脂質からなる膜に包まれ、その表面には多様なタンパク質が埋め込まれています。これらのタンパク質や脂質の多くは、ガラクトースやグルコースといった糖が鎖状に連なった「糖鎖」と結びつき、まるで糖衣に覆われたドーナツのように、細胞の表層を彩っています(Figure 1)1)。この糖鎖は、血液型を決める目印になり、細胞どうしの接着や病原体が細胞に感染する際の足場となり、またタンパク質の寿命を調節する品質管理のラベルにも働くなど、多様な役割を担います。さらに、地球上のあらゆる生物種に目を向けると、その体内には「レクチン」と呼ばれる糖鎖結合性タンパク質が広く存在しています2)。糖鎖とレクチンの「引き合い(=相互作用)」は、単なる接着の仕組みを超えて、細胞の運命を左右するシグナルや、生体防御、生命現象そのものの多様性を生み出しています。
数百万種類以上存在する動物のうち、最も動物の祖先に近いとされるのが「カイメン動物(スポンジ)」です。手触りはふかふかして、重量の半分以上は共生する細菌に由来すると言われます3)。極地から赤道までの海や淡水の沿岸から深海まで広く分布し、岩などの基盤に固着して生息しています3)。襟(えり)細胞、アメーバ細胞、表皮細胞といった異なる役割を担う細胞が集まり体を構成するという、原始的ながら高度に協調的な仕組みを持つ動物です4)。
カイメンは海洋環境と生物多様性の維持に重要な役割を果たしており、襟細胞のべん毛運動により体表の無数の孔から海水を吸い込み、細菌・プランクトン・有機物などをろ過して栄養源とします。この働きにより、海水が浄化されサンゴや他の海洋生物に清浄な水を供給する。また、炭素や窒素などの物質を高次食物連鎖へと受け渡し、エネルギー循環を促す。さらに、エビ・カニ・小魚など小型生物の隠れ家や繁殖場所となり、岩やサンゴ礁を覆うことで波の衝撃から海底を守る緩衝材としても機能します。共生菌の中には毒を作るものもおり、ある毒は、抗がん剤として利用されています5)。このようにしてカイメン動物は独自の微生物コミュニティを維持し、海の生態系を保全する基盤にもなります。
1) Varki, A., Kornfeld, S., Ch1 in Essentials of Glycobiology, 4th ed., Varki, A., Cummings, R.D., Esko, J.D., Stanley, P., Hart, G.W., et al., Eds. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, USA (2022)
2) Angulo, J., Zimmer, J., Imberty, A., Prestegard, J.H., Ch30 in Essentials of Glycobiology, 4th ed., Varki, A., Cummings, R.D., Esko, J.D., Stanley, P., Hart, G.W., et al., Eds. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, USA (2022)
3) Kanchanasin, P., Salahong, T., Sripreechasak, P., Suriyachadkun, C., Harunari, E., et al., Sci Rep. 14: 22140 (2024)
4) Brusca, R.C., Giribet, G., Moore, W., Invertebrates 4th Ed Oxford Univ Press (2022)
5) Garcia-Sayre, J., Lin, Y.G., Matsuo, K., Tsao-Wei, D.D., Mhawech-Fauceglia, P., et al., Gynecol Oncol173: 49-57 (2023)
