ニュース Customer News 「ペプチド中のD-アミノ酸の検出を可能にする世界初の多次元赤外円二色性分光装置を開発」愛媛大学 佐藤久子 教授

「ペプチド中のD-アミノ酸の検出を可能にする世界初の多次元赤外円二色性分光装置を開発」愛媛大学 佐藤久子 教授

2021年2月4日

愛媛大学愛媛大学大学院理工学研究科 佐藤 久子 教授の研究グループは、日本分光株式会社、横浜国立大学大学院工学研究院、北里大学理学部との共同研究で、量子カスケードレーザーを用いたスキャン機能型の多次元赤外円二色性分光装置の開発に成功しました。

生物物理学・医学分野で非常に重要なテーマになっているキラリティの解析を迅速かつ生体試料のままで行うために、今回、“多次元赤外円二色性分光法”と呼ばれる測定装置を開発しました。この装置では、「従来手法では水溶媒の影響をうけて測定困難だったアミドⅠ・Ⅱ領域のシグナルの検出」、「自動ステージ機能により、サンプル内の異なる位置でのキラリティの違いの検出」、「従来の熱光源測定からの測定時間の短縮」を可能にしました。

今後、この顕微スキャン技術を駆使して、種々の試料形態におけるキラリティ解析手法を確立することを目指しています。

1次元のシグナルの例(緑色 D-セリン、赤色 L-アラニン)(左)
サンプル内の2次元分布:D-セリンとL-アラニンの識別の例(右)
(緑色 D-セリン、赤色 L-アラニン)
  • この成果は、2021年1月28日の Analytical Chemistry 誌に掲載されました。
    Analytical Chemistry 誌へのリンクはこちら
  • 本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST 未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域の研究開発課題「多次元赤外円二色性分光法の開発」(研究開発代表者 佐藤久子)(JPMJMI18GC)の支援を受けて行われました。
    国立研究法人 科学技術振興機構のプレスリリースへのリンクはこちら

開発された装置の概要

従来の赤外円二色性分光法に量子カスケードレーザーおよび顕微スキャン技術、自動ステージを組み合わせたシステムとなっています。
量子カスケードレーザーの利点である単色性と高い輝度を生かした赤外円二色性の測定システムとすることで、高速・高感度化を達成しました。さらに顕微スキャン技術と自動ステージの追加により、空間をスキャンさせる測定手法が可能になり、サンプル内の異なる位置でのキラリティの違いを検出することも可能となりました。
従来の熱光源と量子カスケードレーザーを切り替え可能なコンカレントシステムとなっているため、熱光源を用いた広い波数領域(4000-750 cm-1)の測定と量子カスケードレーザーを用いた限られた波数領域(1740-1500 cm-1)での波数スキャン測定と波数固定測定の両方を可能にします。特に波数固定では最短1秒で測定が行え、生体試料のキラリティの空間分布や時間変化の検出に適用できます。
※本システムはFVS-6000型振動円偏光二色性分光光度計がベースになっています。

先生のご紹介

佐藤 久子 先生

愛媛大学 大学院理工学研究科 環境機能科学専攻 教授
* 所属は論文掲載当時
複合体化学研究室のホームページはこちら

先生からのコメント

国立開発法人 科学技術振興機構 (JST) 未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域の研究開発課題「多次元赤外円二色性分光法の開発(研究開発代表者:佐藤久子)」プロジェクトを日本分光株式会社、横浜国立大学、北里大学と共同ですすめております。この装置は、従来の赤外円二色性分光装置に、時間分解と顕微スキャンという2つの技術を兼ね備えた新しい装置となります。
2007年に第1号機として、界面への応用を目指し、高感度反射対応赤外円二色性分光装置を共同開発いたしました。そのときにネーミングした“コンカレント測定”を意識して研究をすすめています。その後、2016年に直線偏光測定も可能な装置へと第2世代の装置を共同開発いたしました。ゲルなどの超分子キラリティの解析、固体サンプル中の分子認識へと応用を広げていきました。そのような中で、私は生体試料のままでキラリティを測定したいと常々思ってきました。そのためには新しい分光学的手段が必要というその思いを受けとめていただき、日本分光さんのおかげで“絵に描いた夢”が実際の装置として実現したことを大変うれしく思います。今後は顕微スキャン技術を駆使して、種々の試料形態に適用することを目指していきたいと思います。