水は地球上のいたるところに気体(水蒸気)、液体(水)、固体(氷)として存在し、循環しています。また、水は強い極性を持つ溶媒であり、多くの無機物や有機物を溶解して化学反応を引き起こします。生体内ではタンパク質や核酸を溶解し、生命活動に欠かせない反応の場として作用しています。水の性質にはOH基の水素原子と近傍の窒素原子、酸素原子、フッ素原子などの孤立電子対が作る水素結合が大きく影響を与えています。水分子を構成する酸素原子は2つの孤立電子対を持っているため、2つの水素原子と水素結合を形成することができ、水分子同士も水素結合を形成します1)。
水素結合を形成すると、水分子の双極子モーメントは変化します。赤外分光法を用いると、感度良くその変化を測定することができ、遠赤外域、中赤外域、近赤外域において多くの測定結果が報告されています2-4)。さらに、通常は分子振動由来の吸収が観測できない可視域でも、基本振動が強い水の分子振動由来の結合音は観測できます。中赤外域では水の吸収が非常に大きく、透過測定を行う場合には赤外透過材の 10 µm 程度の短光路長のセルが必要です。一方、可視域から 1300 nm 程度までの近赤外域では中赤外域に吸収を持つ石英やガラスの 1-100 mm 程度の一般的な光路長のセルで透過測定が可能です。
ここでは、紫外可視近赤外分光光度計とペルチェセルホルダーを用いて純水の近赤外域と可視域の吸収スペクトルの温度変化測定を行い、水素結合の変化を解析した結果をご紹介します。
1) D.Eisenberg,W.Kauzmann:Oxford University Press,USA(2005).
2) T.Iwata,J.Koshoubu,C.Jin,Y.Okubo:Applied Spectroscopy,51,9(1997).DOI:10.1366/0003702971942196
3) D.Ishikawa,R.Shinohara,N.Shichishima,T.Fujii:Applied Spectroscopy,77,9(2023).DOI:10.1177/00037028231180869
4) K.Buijs,G.R.Choppin:The Journal of Chemical Physics,39.8(1963).DOI:10.1063/1.1734579