有機化合物は分子設計自由度の高さから分子多様性を有し、世界中の研究者達の独創的なアイデアによって、数々の分子骨格が生み出されてきた。発光性有機色素類の開発も同様に目覚しく、蛍光やリン光発光色素だけでなく、熱活性型遅延蛍光色素、キラルな構造特性を生かした円偏光発光色素まで開発が進んでいる。発光メカニズムについても理論計算化学の発展とともに解析が進み、現代有機化学において、設計段階から物性の解明まで、理論化学的な情報は欠かせない状況となっている。緻密な分子設計と巧みな合成技術によって生み出された有機色素類が示す鮮やかな発光はバイオイメージングや有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料に至るまで幅広く活用されており、我々の生活に革新的な変化を提供している。家電量販店において「有機ELテレビ」の言葉が大体的に広告として記載されているのは研究者達の圧倒的な情熱の賜物に他ならない。希少金属元素を用いた色素類の発光効率や純度・輝度に比べて有機色素類はまだまだ、という風潮も既に失われつつある。しかしながら、重原子や軽原子にしても、それぞれの特性を活かした分子設計には未だ開拓の余地(もしくは構造との相関が未解明)がある、というのが現状である。
一般的に知られているπ共役系有機色素類は平面かつ剛直な構造をとる場合が多いが、北里大学理学部に着任して、初めて発光色素を取り扱うこととなり、従来のものとは異なる「湾曲した」系について研究する機会に巡り会えた。そこで本稿では、我々のグループで近年開発に成功した湾曲構造を有する酸素や硫黄などのカルコゲン元素を組み込んだπ共役系有機色素類について紹介したい。