技術情報 Jasco Report 超低電圧青色有機ELにおける界面での電荷移動過程
Jasco Report

超低電圧青色有機ELにおける界面での電荷移動過程

東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 伊澤誠一郎
Introduction

有機発光ダイオード(OLED)、つまり有機ELは色鮮やかな映像を映し出せることから、スマートフォンや大画面テレビなどに使われ既に市販されている。さらに近年ではVRゴーグルのプロジェクターや、PC画面、車載用ディスプレイなど応用先に広がりを見せている。有機ELの消費電力は、電流×電圧=電力で表される。まず電流効率に関しては、75%の割合で生成する一般的には発光させることが難しい三重項励起状態(T1)を重原子効果で光らせられるりん光分子や1)、T1を発光性の一重項励起状態(S1)に変換することができる熱活性化遅延蛍光分子(TADF)分子の開発などで最適化され2)、デバイス内で電流を光に変換する効率(内部量子収率)が100%に到達したものも数多く報告されている。一方で、有機ELの駆動電圧に関しては依然として高いままである。特に、光の三原色である赤・緑・青の中でも、最も光エネルギーの高い約460 nmの青色発光では、スマートフォンディスプレイ程度の発光輝度を得るために、約4 Vの駆動電圧を要する3)。さらに青の光エネルギーが大きいことは、素子寿命の低下をもたらす。赤、緑の素子に関しては高効率なりん光分子を用いたデバイスが実用化されているが、青に関しては未だにアントラセン誘導体などの伝統的な蛍光分子が使われている。これは青の光エネルギーが有機分子の炭素―窒素の結合エネルギーと同程度であるため、高エネルギーかつ長寿命のT1ができる青のりん光分子やTADF分子は分子の分解が起こりやすく原理的に安定性を向上させるのが難しいからである4)。一方で、蛍光分子であるアントラセン誘導体はT1準位が低く、安定であるため商用素子で重宝されている。しかし、主に25%の割合で生成するS1からしか発光を取り出せないため発光効率が低く、その上、分子のバンドギャップエネルギー相当よりも大きな電圧をかける必要があり駆動電圧も高い。

そこで近年、我々はアントラセン誘導体の低エネルギーのT1を、ナフタレンジイミド誘導体との界面で生成する電荷移動(CT)状態を経由することで選択的に励起し、その後の三重項-三重項消滅(TTA)によるアップコンバージョン(UC)過程を経て高エネルギーのS1を作り出し発光させることができる超低電圧で駆動する青色UC-OLEDを開発してきた5), 6), 7)。アントラセン誘導体はT1のエネルギーが1.7 eV程度で、S1のエネルギーが2.9 eV程度であり、2T1 > S1のエネルギー関係を満たすため、光UCを起こすTTAエミッター分子として幅広く利用されてきた。ここで従来の有機ELの駆動原理と比較すると、電気励起でS1とT1そこで近年、我々はアントラセン誘導体の低エネルギーのT1を、ナフタレンジイミド誘導体との界面で生成する電荷移動(CT)状態を経由することで選択的に励起し、その後の三重項-三重項消滅(TTA)によるアップコンバージョン(UC)過程を経て高エネルギーのS1を作り出し発光させることができる超低電圧で駆動する青色UC-OLEDを開発してきた5), 6), 7)。アントラセン誘導体はT1のエネルギーが1.7 eV程度で、S1のエネルギーが2.9 eV程度であり、2T1 > S1のエネルギー関係を満たすため、光UCを起こすTTAエミッター分子として幅広く利用されてきた。ここで従来の有機ELの駆動原理と比較すると、電気励起でS1とT1エネルギーを見積もることができるため、UC-OLEDはこれら界面での励起状態間の遷移過程を詳しく観測するのに適した系である。

そこで本研究ではアントラセン誘導体のドナー分子3種類とナフタレンジイミド誘導体のアクセプター分子15種類の組み合わせで、D/A界面でのエネルギー準位が異なる計45種類のデバイスを作製し、それぞれのデバイスのTTA-UC発光強度を観測した。またD/A界面でのCT発光とアントラセン誘導体のT1発光をそれぞれ観測することで、それらの状態間のエネルギー差が、CT状態からT1への遷移に伴う1電子移動過程に与える影響を明らかにする目的で研究を行った8)

1) M. A. Baldo, D. F. O’Brien, Y. You, A. Shoustikov, S. Sibley, M. E. Thompson, S. R. Forrest, Nature 395, 151 (1998).
2) H. Uoyama, K. Goushi, K. Shizu, H. Nomura, C. Adachi, Nature, 492, 234 (2012)
3) J. Hu, Y. Pu, F. Satoh, S. Kawata, H. Katagiri, H. Sasabe, J. Kido, Adv. Funct. Mater., 24, 2064 (2014)
4) D. Wang, C. Cheng, T. Tsuboi, Q. Zhang, CCS Chem. 2, 1278 (2020).
5) S. Izawa, M. Hiramoto, Nat. Photon., 15, 895 (2021)
6) S. Izawa, M. Morimoto, S. Naka, M. Hiramoto, Adv. Opt. Mater., 10, 2101710 (2022)
7) S. Izawa, M. Morimoto, K. Fujimoto, K. Banno, Y. Majima, M. Takahashi, S. Naka, M. Hiramoto, Nat. Commun., 14, 5494 (2023)
8) H. Iwasaki, K. Fujimoto, K. Banno, Q. Shui, Y. Majima, M. Takahashi, S. Izawa, Angew. Chem. Int. Ed., 63, e202407368 (2024)