技術情報 Jasco Report 蛋白質のフォールディング中間体を標的とした創薬
Jasco Report

蛋白質のフォールディング中間体を標的とした創薬

大阪公立大学大学院 理学系研究科 生物化学専攻 長谷川楓輔
大阪公立大学大学院 理学系研究科 生物化学専攻 井上 栞里
大阪公立大学大学院 理学系研究科 生物化学専攻 恩田 真紀
Introduction

蛋白質の分子構造に基づく創薬は、従来、安定な立体構造を保持した分子を標的としてきた。しかし、近年は神経変性疾患に代表されるミスフォールディング病や、難治性家族性疾患の標的として、構造に揺らぎがあるフォールディング中間体が注目を集めている。構造が一定しないため、高い結合親和性や分子特異性を示す薬剤の開発が困難とされてきたが、計算科学の飛躍的進歩を背景に、近年は様々なアプローチが発展を遂げている。本報では、その1例として、家族性ミスフォールディング病の1つである α1-アンチトリプシン欠乏症(指定難病231)の低分子治療薬開発について紹介する。

α1-アンチトリプシン(AAT)は、肝臓で産生される血中最多のプロテアーゼ阻害蛋白質で、主たる阻害対象は好中球エラスターゼとカテプシンGであるが、TMPRSS2も阻害することから、AATの活性低下はウイルスの細胞侵入を容易にし、COVID-19等のウイルス性感染症の重症化リスクを高める。1) AATは常染色体共顕性で、欧米を中心に高い割合で病原性変異体保有者が存在するが(S型:南欧で20%, Z型:北欧で3.7%)2)、野生型/変異体ヘテロ保有者は、血漿1 dL当たりのAAT活性がやや低いものの、これまで薬物療法の対象外であった。しかし、COVID-19パンデミック以降は治療薬のニーズが高まり、高コストなAAT補充療法に代わる低分子薬剤の開発が望まれている。

AAT欠乏の要因は、病原性点変異(S型:Glu264Val, Z型:Glu342Lys)によるミスフォールディングで、血中への分泌量が減少して肺気腫を引き起こし、更には肝細胞内にポリマーが蓄積して肝硬変を発症させる。よって、フォールディング中間M* は有力な創薬標的分子であり、3), 4) これに結合して正しいフォールディングを促すケミカルシャペロンの創出を我々は目指している。ここでは、保有者数が最多であるS型AATを標的とした、ケミカルシャペロンの探索と、その作用機構解析について解説する。

標的構造の選定とin vitroでの再現

開発において課題となるのは、先にも述べた通りフォールディング中間体の構造の不安定性と多様性(アンサンブルと呼ばれる様々な構造の集合体)であるが、AATについては古くから分子動力学法(MD)と水素重水素交換質量分析(HDX-MS)を組み合わせた構造解析が盛んであった。5), 6) 我々は、MDで推定されている中間体M*の構造アンサンブルのうち、

  1. 二次構造クラスターが6Å以内に近づいている部位がある
  2. 薬剤結合部位となり得る疎水性ポケットを形成し、その存在時間が比較的長い
  3. その疎水性ポケット近傍の構造が、野生型-変異体間で差が大きい
等の要件を満たす分子構造を5ポーズ選択し、これらを鋳型としてin silicoスクリーニングを実施、21万の化合物ライブラリーの中から有望な455化合物を見出した。

次に、455の化合物の中から、実際にAATのフォールディングを助ける化合物の絞り込みを行うが、高コストな培養細胞を使ったスクリーニングに先立ち、大腸菌から得た組換え型AATで絞り込みを行った。S型AATはミスフォールディングしやすく、大腸菌上清画分からは得られないが、封入体を界面活性剤で洗浄した後に尿素変性条件下でNi-アフィニティークロマトグラフィーおよびゲル濾過法で精製し(Jasco HPLC イソクラティックシステムを使用)、変性AATとして調製した。AATはフォールディング経路の特殊性(アンフィンセンのドグマに反する)から、30年以上前からin vitroでのフォールディング研究が盛んで、pHや尿素濃度を調整し平衡化させることで、様々な段階のフォールディング中間をトラップする手法が確立されている。7) これら既往研究に準じ、細胞内でのフォールディングをin vitroで再現した。

1) C. Yang, K. R. Chapman, A. Wong and M. Liu: Lancet Respir. Med. 9, 337-339 (2021)
2) P. Strnad, N. G. McElvaney and D. A. Lomas: N. Engl. J. Med. 382, 1443-1455 (2020)
3) M. Yamasaki, W. Li, D. J. Johnson and J. A. Huntington: Nature 455, 1255-1258 (2008)
4) S. Takehara, J. Zhang, X. Yang, N. Takahashi, B. Mikami and M. Onda: J. Mol. Biol., 403, 751-762 (2010)
5) V.V.H. Giri Rao and S. Gosavi: Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 115, 1998-2003 (2018)
6) Y. Tsutsui, R. D. Cruz and P. L. Wintrode: Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 109, 4467-4472 (2012)
7) E. Plessa, L. P. Chu, S. H. S .Chan, O. L. Thomas, A. M. E. Cassaignau, C. A. Waudby, J. Christodoulou and L. D. Cabrita: Nat Commun. 12, 6447 (2021)