技術情報 Web基礎セミナー FTIRの基礎(2) FTIRの原理
FTIRの基礎

FTIRの基礎(2) FTIRの原理

分散型とフーリエ変換型(FTIR)の赤外分光光度計の違い

赤外分光光度計には、光学系の違いにより、分散型とFTIRの二種類が存在します。
分散型は、試料を透過した後の光を回折格子により分散させ、各波長を順次検出器で検出するものです。一般的にはダブルビーム方式になっており、リアルタイムでバックグラウンド補正します。
FTIRは、干渉計を使用し、非分散で全波長を同時に検出します。それから、コンピュータ上でフーリエ変換を行い、各波長成分を計算するものです。
歴史としては分散型が古く、日本では、日本分光の前身である東京教育大学光学研究所時代、1954年から製造、販売しています。一方FTIRは、1982年から製造、販売しています。現在の主流はFTIRです。
分散型とフーリエ変換型
図1 分散型(上)とフーリエ変換型(下)の光学系

FTIRの原理

FTIRで用いるフーリエ分光法は、2光束干渉計を分光に利用したものの総称です。構成としては、半透鏡と2枚の反射鏡(1枚は固定、1枚は可動)になります。光源からの光は、平行光束で干渉計に導かれ、半透鏡に斜入射され、透過光と反射光の二つの光束に分割されます。二つの光束は、固定鏡と移動鏡で反射され半透鏡に戻り、再び合成され、干渉波を発生させることができます。移動鏡の位置(光路差)により異なる光の干渉波が得られ、各位置における干渉波の信号強度から計算で、各波数成分の光の強度に分離できます。この計算がフーリエ変換で、コンピュータで高速に処理できます。つまり、回折格子の代わりに、干渉波を計算で分光し、赤外スペクトルを測定する装置がFTIRです。
FTIR移動鏡の役割
図2 FTIRにおける干渉波の発生

透過スペクトルを得るまで

FTIRは、一般的にシングルビームの測定です。このため、試料室に試料がある状態とサンプルのない状態(バックグラウンド)の二つの測定から試料の透過スペクトルを得ます。サンプル、バックグラウンドともに、得られたインターフェログラムをフーリエ変換して、シングルビームスペクトル(SB)を得ます。透過スペクトルは以下の式により算出します。
(試料のSB)/(バックグラウンドのSB)×100 = 透過スペクトル
透過スペクトルでは、各素子のエネルギー特性や、H2O、CO2の吸収がキャンセルされます。
FTIR処理フロー
図3 透過スペクトル測定の流れ

FTIRのメリット

分散型に比べたFTIRのメリットとして、以下の4点が挙げられます。

①多波長同時検出
FTIRは移動鏡を動かすだけでIRスペクトルが測定できます。分散型のように、回折格子を動かして波長をスキャンする必要が無く、高速に測定が行えます。検体数の多い測定や、積算を多くかけてノイズを減らしたい場合などに有効です。加えて、多波長を同時に測定できるため、各波長で時間的なズレが発生しないという利点もあります。時間変化に伴う試料の状態変化を観測する場合に有効です。

②スループットが高い
分散型ではスリットを用いますが、FTIRではスリットを用いず、検出器に到達するエネルギーが大きくなり、結果としてS/Nが高くなります。

③波数分解能が高い
分散型では、波数分解能の高いスペクトルを測定するにはスリットを絞る必要があります。そのため、波数分解能を上げるとS/Nが低くなり、上げられる波数分解能が限られます。 一方、FTIRでは、移動鏡の移動距離を伸ばすことで波数分解能を上げられます。隣接した波数の光を分離するためには、移動鏡の移動距離を伸ばせば、独立した波として分離できるためです。
販売開始当初は、FTIRが非常に高価だったため分散型が主流でしたが、現在ではコンピュータの価格が大きく下がり、FTIRの価格も下がったため、精度の高いFTIRが主流になっています。

④測定波数域の拡張が可能
光源、ビームスプリッター、検出器、窓板の交換により、遠赤外から可視まで測定波数域を広げることができます。分散型の装置では波数拡張するのは非常に難しく、実用的ではありません。
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