技術情報 Web基礎セミナー 紫外可視分光光度計の基礎(5) 意外と知らない?紫外可視分光光度計のノウハウ
紫外可視分光光度計の基礎

紫外可視分光光度計の基礎(5) 意外と知らない?紫外可視分光光度計のノウハウ

ダブルビームのすすめ

使用目的として、検体数が比較的少なく、定量や固定波長測定に限るような場合にはシングルビーム方式の分光光度計で充分です。一方、精度を要する場合や、時間のかかる多検体測定、経時変化や温度変化に伴う吸光度変化を測定するような場合は、ベースラインが安定で、高精度測定を迅速に行うことのできるダブルビーム方式の紫外可視分光光度計をおすすめします。
シングルビームとダブルビームのベースライン
図1 シングルビームとダブルビームのベースライン

シングルビームとその特徴

シングルビームは、分光器から出た光がそのまま試料に照射され、検出器に入るものを指します。
  • 光学系が単純になるため、安価です。
  • 光源のゆらぎなどの影響を受け、時間の経過と共に透過率が変動します。(図1)
  • 正しい吸光度測定には、ブランク測定が必須です。
  • 時間変化、温度変化測定には適しません。
  • 短時間で測定できる固定波長測定に適します。
シングルビームの光学系
図2 シングルビームの光学系

ダブルビームとその特徴

ダブルビームは、分光器から出た光をビームスプリッターで2光束に分け、試料とリファレンスに照射し、検出するものを指します。リファレンスにより、自動でブランク補正できます。
  • 光学系が複雑になるため、やや高価です。
  • 光源のゆらぎ等の影響が除けるので、時間変化に伴う吸光度変化が少なく安定です。
  • 時間変化、温度変化、多検体測定に適します。
ダブルビームの光学系
図3 ダブルビームの光学系

高精度な測定を実現するセルの使用方法

市販されているセルには様々な種類があります。ガラス製、石英製、プラスチック製という材質の違うもの、5mm、10mm、20mm、50mmという光路長の違うもの、キャピラリーセル、フローセルという形状の違うもの等が挙げられます。
測定したい波長の透過率が高いなど、目的に合わせてセルを選択することはもちろん重要です。さらに、ロット番号の同じセルを使用する、セルを使用する向きを揃える、セルホルダの奥まで固定し、同じ位置で測定するなどといった工夫が、セルの透過率を一定にし、精度の高い測定を可能にします。
セルの吸収、反射と透過率
図4 セルの吸収、反射と透過率

溶媒の吸収と試料の吸収を判別する

たとえ適切なセルを選び、ベースライン測定を正確に行ったとしても、溶媒に吸収があるとスペクトルに影響が出ることがあります。
図5はその一例ですが、紫外部に吸収を持つ水酸化ナトリウム溶液に、カフェインを溶かして測定を行ったものです。極端な場合、青と緑のスペクトルの違いが現れます。注意したいのは、緑のスペクトルを見て、「200nm付近のピークで定量が出来る」という誤解をする危険があることです。実は、日本薬局方にもこの偽ピークが載っています。
試料の濃度を変え、ピークの大きさの変化を確認すれば、試料のピークかどうかの判断はつきます。しかし、公的に規格されていて、ほとんど不合格にならない試料を測り続けていると、誤りに気づくことができません。従って、分析法を作る最初の段階での溶媒選択が非常に重要なのです。
カフェインのUVスペクトル
図5 0.01mol NaOH水溶液中のカフェインの測定
では、溶媒のスペクトルはどのように測定すれば良いでしょうか。図6の青色のスペクトルは、試料室を空にしてベースラインを測定後、試料側にのみ10mmセルをおいて水を測定した例です。セルによる光の吸収、反射をキャンセルできないため、可視域でも透過率が80%程度と、実際よりも透過率が低くなります。
そこで、より正確な溶媒のスペクトルを測るために、「吸光度が光路長に比例する」という法則を利用します。対照側に10mm、試料側に20mmのセルを置いて測定すれば、光路長の差である10mmで測定した場合と同様の結果が図6の緑色のスペクトルとして得られます。このように対照側に手を加えることで、溶媒のようなブランクが無い試料でも測定することが出来ます。
純水のスペクトル測定
図6 純水のスペクトル測定

吸光度の高い試料を高感度に測定する

光電子増倍管の感度は、検出器にかかる電圧によって決定します。電圧の調整は検出器に入射する光量に依存し、光量が減少すると電圧が高くなり、感度が上昇します。
光電子増倍管は、試料側、対照側光束ともに検出しているので、対照側光束を透過率1%程度のNDフィルタで減光することにより検出器の感度を上げることができます。
この方法は吸光度3以上の試料に対して有効です。図8で明らかなように、減光無しに比べてノイズが少なく、高感度に測定できることが分かります。
吸光度の高い試料の測定方法
図7 吸光度の高い試料の測定方法
吸光度の高い試料のスペクトル
図8 吸光度の高い試料のスペクトル
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