技術情報 Web基礎セミナー 紫外可視分光光度計の基礎(3) 紫外可視分光光度計の応用例
紫外可視分光光度計の基礎

紫外可視分光光度計の基礎(3) 紫外可視分光光度計の応用例

低濃度六価クロムを高精度で定量

六価クロムは、酸化数が+6のクロムの総称です。代表的な化合物には、三酸化クロムやニクロム酸カリウムが挙げられ、主にメッキや塗料といった表面処理材料、または、酸化剤として使われています。六価クロムは、人体に対して強い毒性を示すことが知られています。国際がん研究機関は、六価クロムの化合物をグループ 1 「ヒトに対して発がん性がある」物質として分類しています。六価クロムの溶液に触れたり、粒子を吸い込むと、手足や顔に炎症を起こすことが知られています。国内外で環境や製品に対する六価クロムの規制が設けられています。

基準値を満たしているかを確認するために、水中の六価クロムを定量する必要があります。
そこで利用されるのが「ジフェニルカルバジド法」です。六価クロムの溶液にジフェニルカルバジドを加えると、六価クロムが酸化され、三価のクロムとジフェニルカルバゾンが生成されます。この三価のクロムとジフェニルカルバゾンは、錯体を形成します。錯体は、540 nm の光を吸収し、赤紫色に呈色します。元の溶液に含まれる六価クロムの量が多いほど、反応後溶液の赤紫色は濃くなります。つまり、540 nm の吸光度が大きくなります。このことを利用して、反応後溶液の 540 nm の吸光度から、六価クロムの定量が可能です。

六価クロムの溶出、発色のスペクトル
Fig.1 六価クロムの定量方法
検量線
Fig.2 検量線

日焼け止めクリームの性能評価

日焼け止めクリームは、皮膚に塗ることで日焼けの原因となる紫外線をカットする商品です。従来、被験者による皮膚パッチテストで効果を評価していました。しかし、健康で過敏症のない被験者 10 名が必要で、日焼けするまで待つ必要があることなど、時間とコストのかかる試験方法でした。
日焼け止めクリームの効果の表示方法として、SPF 値(280~320 nm の赤くなる日焼けに対する効果)と PA 値(320~400 nm の黒くなる日焼けに対する効果)の二つがあります。波長の異なる SPF 値、PA 値の算出に、紫外可視分光光度計を活用するというニーズに対し、試料を専用セルに塗布して測定する方法と、専用の計算プログラムを適用することで、SPF 値・PA 値の算出が可能になりました。

SPF 値測定用専用セル
Fig.3 SPF 値測定用専用セル
日焼け止めクリームの測定例
Fig.4 日焼け止めクリームの測定例

蛍光性固体試料の測定

試料に測定光を照射した際に、試料が蛍光を発すると、その蛍光が検出されて透過や反射スペクトルが歪みます。
試料の前で測定光を分光する前分光型の分光光度計の場合、試料の蛍光を生じさせる励起波長の範囲において、スペクトルが歪みます。

前分光型分光光度計の蛍光の影響
Fig.5 前分光型分光光度計の蛍光の影響

透過測定の場合、測定したい光、つまり透過光は指向性があり、検出器へまっすぐ進んできます。それに対して蛍光は、指向性がなく、試料から広がるように放射されます。そのため試料を検出器から遠ざけることで、蛍光の割合を減らし透過光をメインに検出することが可能となります。

Fig.6 試料を検出器から遠ざけることで蛍光の影響を減らすことができます

蛍光性試料の測定に関するその他のコツは、JASCO Web Seminar『分光光度計 蛍光性固体試料の測定法の解説』にて解説しています。

基板上の薄膜測定

基板上の薄膜に関して、膜の透過率だけを測定したいという要望は多くあります。溶液測定などの経験から基板でベースライン測定を行えばよいと思われる方が多いですが、これは適切ではありません。
透過測定では、透過した光は試料の吸収と界面での反射の影響を受けます。基板の透過測定の場合は、2点の界面で反射が生じますが、薄膜のついた基板では空気と膜・膜と基板・基板と空気の3つの界面で反射が生じます。基板でベースライン測定をすると反射率の違いが反映されないため、正しい測定結果を得ることができません。

Fig.7 基板と薄膜付き基板の界面の違い

基板上に貼りついた薄膜の透過率を測定するには、厚さが既知で膜厚が異なる2つの試料を準備し、厚さあたりの透過率を求めることができます。

Fig.8 薄膜の透過率を測定するための測定

JASCO Web Seminar『分光光度計 基板上の薄膜測定法の解説』にて、詳細な解説をしています。

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