分光蛍光光度計の基礎(1) 蛍光とは?
蛍光とは?
物質には、エネルギーを吸収するとそのエネルギーを光で放出するものがあります。この発光現象を、一般にルミネッセンスと言います。ルミネッセンスは、表1で示すように様々な種類があります。蛍光は、光(紫外・可視光)のエネルギーを吸収し発光するフォトルミネッセンスの一種です。
図1 蛍光体の例
表1 ルミネッセンスの種類
種類 |
刺激源 |
例 |
フォトルミネッセンス |
紫外線、可視光線、赤外線 |
フルオレセイン、硫酸キニーネ、ローダミンB |
エレクトロルミネッセンス |
電圧 |
LED、有機EL、無機EL |
化学ルミネッセンス |
化学変化(酸化反応) |
白リン(青緑色発光)、ホルムアルデヒド、パラアルデヒドのアルカリ・エタノール溶液による酸化、シロキセンのCe(IV)による酸化 |
生物ルミネッセンス |
生理的吸収(酸化酵素反応) |
ウミホタル、ホタルの発光、ルシフェラーゼの接触作用により酸素で酸化される際に発生 |
放射線ルミネッセンス |
α、β、γ線、中性子線 |
シンチレーター(NaI・TII) |
X線ルミネッセンス |
X線 |
X線蛍光体
{SnCdS: Ag(緑色発光)、ZnS: Ag(青色発光)}
|
カソードルミネッセンス |
電子線 |
蛍光・りん光体、ブラウン管、アパタイト |
熱ルミネッセンス |
熱 |
温度上昇に伴う発光(ホタル石、硫化物系蛍光体) |
音化学ルミネッセンス |
音波、超音波(1 KHz~2 MHz) |
音の刺激による化学反応(ルミノールの酸化反応) |
摩擦ルミネッセンス |
摩擦、ひずみ、破壊による発光 |
氷砂糖、ZnS |
光の吸収と発光
光はE=hν(E: エネルギー、h: プランク定数、ν: 振動数)で表されるエネルギーを持っています。光が物質にあたるとき、光の持つエネルギーが物質に吸収される場合があります。エネルギーの吸収により、安定なエネルギー状態(基底状態)にあった物質は、一時的に高いエネルギー状態(励起状態)になります。そして、物質はエネルギーを放出し、安定な基底状態に戻ろうとします。このとき、差分のエネルギーを熱などではなく、光として放出する現象のことを発光といいます(図1)。多くの物質では、吸収したエネルギーの一部を熱エネルギーとして放出するため、吸収した光よりも長波長の光を生じます。
図2 発光の種類とエネルギー図
蛍光とりん光の違い
光刺激による発光には、蛍光とりん光があります。蛍光では、吸収したエネルギーの一部は熱として放出し、残りのエネルギーを光として放出します。りん光の場合も同様に熱を放出します。この際、項間交差が起こり、すぐに基底状態に戻れず、ゆっくりと発光し続ける現象がりん光です。大抵の場合、蛍光はナノ秒オーダー、りん光はマイクロからミリ秒オーダーで発光します。ここで、項間交差について説明します。紫外、可視光を物質が吸収する場合、電子遷移を生じます。この電子にはスピンの向きがあり、二つの電子が逆向きで存在するという決まり(パウリの排他原理)があります。通常の励起ではスピンの向きは逆向きのままですが、項間交差が起こるとスピンが同じ向きになり、そのままでは基底状態に戻れません。そのため、基底状態に戻るのに時間がかかります。
図3 蛍光とりん光の違い