技術情報 Web基礎セミナー 分光蛍光光度計の基礎(5) 分光蛍光光度計の注意事項
分光蛍光光度計の基礎

分光蛍光光度計の基礎(5) 分光蛍光光度計の注意事項

分光蛍光光度計を用いて測定を行う際には、幾つか注意すべき点があります。ここでは、その例を紹介します。

自己吸収

励起波長(吸収波長)と蛍光波長が近い試料では、試料濃度の増加に伴い試料からの蛍光を試料自身が再吸収する「自己吸収(内部遮蔽効果の一つ)」と呼ばれる現象が生じます。例えば、硫酸キニーネ溶液の場合、図1のように励起スペクトルの波長帯と蛍光スペクトルの波長帯に重なりがあり、高濃度になると試料自身がその波長帯の蛍光を吸収するため、図2のように低濃度とは異なる蛍光スペクトル形状を示します(形状を比較するため、強度は規格化しています)。
硫酸キニーネの励起・蛍光スペクトル
図1 硫酸キニーネ溶液の励起・蛍光スペクトル
濃度の異なる硫酸キニーネ溶液の蛍光スペクトル
図2 濃度の異なる硫酸キニーネ溶液の蛍光スペクトル(規格化後)

消光現象

溶存酸素による消光
ナフタレン、アントラセンなどの蛍光物質は、溶存酸素によって蛍光強度の低下が見られ、再現性の良いデータが得られません。そのため、N2ガス置換や真空脱気を行って溶存酸素を取り除き、測定する必要があります。
溶存酸素による消光
図3 溶存酸素による消光
温度消光
一般に、蛍光物質は温度の上昇とともに溶媒の運動、衝突によって熱的に失活するため蛍光強度が減少します。そのため、蛍光測定では吸光測定以上に温度の管理が重要です。

濃度消光
ほとんどの蛍光物質は高濃度になると、蛍光強度が減少します。内部遮断と類似していますが、そのメカニズムは異なっており、分子間の相互作用による影響といわれています。プソイドシアニン水溶液のように、高濃度のときだけ、蛍光を発する物質もあります。

濃度消光
図4 濃度消光
不純物による消光
蛍光測定に用いる試薬や溶媒の純度が低い場合、不純物が試料からの蛍光を吸収したり、不純物が試料と反応したりすることで消光するケースがあります。

スペクトル補正

分光光度計の縦軸が、ベースライン補正による100 %の基準を持つのに対して、蛍光はゼロからの増加分を測定しているため、縦軸の基準がありません。従って、検出される蛍光強度は試料本来の蛍光強度と装置固有の波長特性の積になります。そのため、試料の真のスペクトルを求めるためにはスペクトル補正を行い、観測されたスペクトルから装置固有の波長特性を除去することが必要となります。
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