技術情報 Web基礎セミナー 分光蛍光光度計の基礎(3) 分光蛍光光度計の応用例
分光蛍光光度計の基礎

分光蛍光光度計の基礎(3) 分光蛍光光度計の応用例

分光蛍光光度計の応用例を紹介します。

ライフサイエンス

タンパク質の熱変性評価
タンパク質は紫外光で励起されると、タンパク質を構成する芳香族アミノ酸 (トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン) に起因した蛍光を発します。この性質を利用して、蛍光測定から変性剤や温度によるタンパク質のフォールディング / リフォールディングや、他分子との相互作用の評価などが行われています。
トリプトファン残基に由来する蛍光スペクトルの温度変化
図1 トリプトファン残基に由来する蛍光スペクトルの温度変化
タンパク質の蛍光異方性測定
蛍光異方性は、蛍光分子が励起されてから蛍光を発するまでの間に、その分子がどの程度運動したかという情報を反映します。そのため蛍光異方性を測定することで、タンパク質や核酸など生体高分子の結合状態や立体構造の変化を観測することができます。蛍光異方性の測定をイムノアッセイやバインディングアッセイ等に適用することで、レセプター・リガンド の相互作用や結合特異性などに関する知見を得ることができます。
試料の蛍光異方性と、偏光解消の関連性
試料の蛍光異方性と、偏光解消の関連性
図2 試料の蛍光異方性と、偏光解消の関連性

マテリアル

アップコンバージョン蛍光体の評価
一般に、蛍光は試料が吸収した光(励起光)よりもエネルギーの低い長波長側に現れます。 しかし、アップコンバージョン蛍光体の場合、多段階励起により励起光よりもエネルギーの高い短波長側に蛍光が現れます。この技術は、近赤外光を可視光に変換することが可能なため、太陽電池の発電効率を向上させることができる技術として期待されています。
アップコンバージョン蛍光スペクトル
図3 アップコンバージョン蛍光スペクトル
測定の様子
図4 測定の様子
LEDの量子収率測定
白色 LED には、近紫外から青色の光を発光する発光ダイオードとその光を吸収して可視光を発する蛍光体で構成されているものがあります。この蛍光体の内部量子効率は、白色 LED の発光効率を評価する上で非常に重要なパラメーターであり、その評価方法に関する規格、JIS R 1697 /ISO 20351 も発行されています。
LEDの量子収率測定
カーボンナノチューブの近赤外蛍光測定
カーボンナノチューブ(CNT)、特に単層CNT(SWCNT)は、カイラリティー※1の違いによって直径や電子状態が異なり、結果としてそれぞれ異なる導電性や光学応答性を持ちます。そのため、用途によってはカイラリティーの違いまで考慮したCNTの分離・精製が必要になります。分光蛍光光度計など分光学的手法を用いることでCNTのカイラリティー評価が可能になります。半導体型SWCNT※2の分散液はカイラリティーに特有な波長の近赤外蛍光を発することが知られています。
カーボンナノチューブ
※1 SWCNTは原子1個分の厚さのグラフェンシートを筒状に丸めた構造もので、カイラリティーはシートを丸める方向と直径の両方を表します。
※2 SWCNTには、半導体型と金属型があります。

環境

環境水中の成分解析
河川や湖などの環境水の分析手法として、3D蛍光データと多変量解析の一種であるPARAFAC (Parallel Factor analysis) の組み合わせが用いられます。環境水中には様々な成分が含まれているため多成分の重なり合った蛍光ピークが検出されますが、PARAFAC解析を行うことで各成分の 3D 蛍光データに分離することができ、成分推定や定量を行うことができます。
環境水中の成分解析
クマリンの定量
軽油引取税のかからない灯油や重油を、軽油に代用したり混ぜたりするといった「不正軽油」を使った脱税行為や環境汚染を防止するため、灯油やA重油には識別剤として 1 ppm のクマリンが添加されています。この識別剤を定量する分析法が石油学会規格(JPI-5S-71-2010)で標準化されています。クマリンはアルカリ溶液中で加水分解されシス-o-ヒドロキシケイヒ酸となり、さらにこれに紫外線を照射すると異性化してトランス-o-ヒドロキシケイヒ酸に変わります(図5)。このトランス-o-ヒドロキシケイヒ酸は緑色の蛍光(Ex: 360 nm、Em: 500 nm)を発します。本定量法では、この蛍光を検出します。濃度 0、0.1、0.4、0.8、1.2 ppm に調製したクマリン溶液試料を測定し、検量線を作成したデータを図6、図7に示します。
クマリンの異性化
図5 クマリンの異性化
クマリンの異性化
図6 クマリンの蛍光スペクトル
クマリンの異性化
図7 クマリンの検量線
1 2
3
4 5 6