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赤外顕微鏡を用いた製造過程で混入した異物の分析

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工業製品の製造過程では異物混入が原因で不良品が発生することがありますが、原因特定のための FT-IR による異物分析が広く行われています。5~10 µm 程度の大きさの異物までは赤外顕微鏡で測定できます。それよりも小さい異物(1 µm程度)の場合は、レーザラマン分光光度計で分析できます。

異物が比較的大きい(数百 µm 以上)の場合には、マクロ ATR を用いて簡単に成分の同定を行うことができます。しかし異物は多種類の成分を含むことが多く、空間的に広い領域を測定するマクロ測定では、成分が混ざって検出されるため解析が難しく成分の同定が困難になることがあります。そのような場合には、5~10 µm 程度の大きさまでの微小領域が測定できる赤外顕微鏡が威力を発揮します。さらに、イメージング測定では、測定エリアを格子状に細かく分割し各点のスペクトルを測定します。これにより空間的に各成分が分離されることで、成分の同定が容易になります。加えて、着色したケミカルイメージを作成することで観察画像からは分からない成分の空間的な分布を知ることも可能となります。

異物分析に有効な顕微赤外分光光度計の各測定法

透過法:サンプルが採取可能な場合

異物が基材から容易に取り外せる場合には、ミクロピンセットなどで異物をピックアップし、透過法による測定が可能です。異物を KBr や赤外透過材料(窓板)に設置して測定することで、良好なスペクトルが得られやすく、成分の同定精度も高くなります。

透過法の概略図
透過法の概略図

反射法・ATR 法:サンプルが採取困難な場合

異物が基材に強固に付着している、または非常に微小でピックアップが困難な場合は、その場での測定が必要となります。

異物が金属部品上に存在している場合には、金属表面の高い反射率を活用した反射法が有効です。この方法では、異物に対して非接触でスペクトルを取得でき、試料の損傷を抑えながら測定できます。

反射法の概略図
反射法の概略図

さらに基材が樹脂など反射率の低い材料である場合や金属板上にある異物でも厚みが 5 µm を超えて吸収が飽和するような場合には、表面を測定できる ATR 法が適しています。ATR 法では、プリズムを試料に軽く押し当てることで表面近傍(約1~2 µm)の情報を取得できます。非金属基板上の異物でも、明瞭なスペクトルを得ることが可能です。

ATR法の概略図
ATR法の概略図

透過法による異物測定事例

KBr プレートを用いたフィルム中の埋没異物(フィッシュアイ)の測定

プラスチック製フィルムの製造工程において、外観不良の原因となる「フィッシュアイ」と呼ばれる異物が混入することがあります。

フィルム中に埋没したフィッシュアイを取り出し、KBr プレートに挟みプレスすることで、赤外透過測定が可能な薄片を作成しました。このように、異物が採取可能な場合には、顕微透過法を用いることで、高感度かつ高分解能でのスペクトル取得が可能となります。

フィルム中の異物
フィルム中の異物
サンプリング
サンプリング
フィルム中の異物のスペクトル
異物のスペクトル

ダイヤモンドセルを用いた電子基板上の樹脂異物の測定

電子基板上に付着した樹脂系の異物は外観や絶縁性に影響を及ぼします。電子基板表面に付着していた微小な異物を回収し、ダイヤモンドセルに挟んで薄膜化することで透過測定を行いました。

ダイヤモンドセルは、プレス機もスライサーも用いることなく、2枚のダイヤモンド板に試料を挟み、手動でつまみを回して圧力をかけるだけで透過法の測定を可能とします。また、使用しているダイヤモンド板が平滑なことから、顕微観察における微小異物の確認が容易なことも特長の1つです。

測定の結果、異物のスペクトルからロジン由来の天然樹脂であることが特定されました。ロジンはフラックスや絶縁材として使用されることがあり、基板製造時に残留・混入する可能性がある物質です。

電子基板上の異物
樹脂パーツ上の異物
電子基板上の異物の透過観察画像
ピックアップ後に透過材にサンプリングした状態での透過観察画像
電子基板上の異物のスペクトル
異物のスペクトル

イメージング測定によるパッキンに付着した異物の測定

ゴムや樹脂製のパッキンに異物が付着しているケースは、密閉不良や異常摩耗などのトラブルにつながる可能性があります。

対象領域を赤外マッピングにより広域にスキャンし、得られたスペクトルを解析して成分分布を可視化しました。この「ケミカルイメージ」によって、肉眼では識別できない異物の成分やその分布が明確になります。

得られた結果から、パッキン上の異物は油脂成分、タンパク質、およびシリコーンとタンパク質の混合物、さらにゼオライトまたはタルクのような無機成分が混在していることが確認されました。

パッキン
観察画像
ケミカルイメージ
ケミカルイメージ
パッキンに付着した異物のスペクトル
異物のスペクトル

反射法による異物測定事例

金属部品上の付着物

金属部品表面に付着した異物が外観不良や機能不全の原因となることがあります。

金属上の異物に対しては、反射法の測定が有用です。測定では、異物のない領域をバックグラウンドとして設定し、異物付着部と比較することで異物のスペクトルを取得しました。エポキシ樹脂に由来する成分であることが示唆されました。これは、接着剤や封止材として使用される材料です。

金属部品上の付着物
金属部品上の付着物
スペクトル
異物のスペクトル

はんだ上に付着した異物

電子基板の製造現場では、はんだ部分への異物付着が製品の信頼性や通電性に影響を及ぼすことがあります。

測定されたスペクトルから、異物の主成分はロジン由来の天然樹脂であることが判明しました。ロジンは、はんだ付け工程で使用されるフラックスに含まれることが多く、処理残渣や飛散による付着が原因と考えられます。

はんだ上に付着した異物
はんだ上に付着した異物
はんだ上に付着した異物
異物のスペクトル

ATR法による異物測定

樹脂上の付着物の測定

エポキシ樹脂表面に付着した微小異物を、ATR法で測定しました。ATR法では、プリズムを試料に密着させて測定するため、非金属基材上に存在する異物でも、その場で明瞭なスペクトルを得ることができます。付着物はアゾ系色素に由来する成分であることが明らかになりました。

付着物の厚みが薄く(1 µm 以下)、基板の情報まで得られてしまう場合は Ge プリズムを使用することで付着物のみの情報を得ることができる場合があります。また、電子基板などで異物周辺の凹凸などによりプリズムと干渉してしまうことがありますが、日本分光ではこれに対応可能な突起型の ATR 対物鏡もラインアップしています。

スマートマッピングは、赤外光を走査させることによって、ステージを移動せずにマッピング測定ができる機能です。
また、日本分光の観察型 ATR は、通常の試料観察だけでなく、プリズムと試料が密着した状態で試料表面を観察できるので、確実に目的の部位を測定できます。
この2つを組み合わせることにより、微小試料の測定を手間なく行うことができます。

樹脂上の付着物
樹脂上の付着物
樹脂上の付着物の測定
異物と基材のスペクトル