分子を構成する原子間では、結合部分が伸縮します。伸縮振動のエネルギーは赤外光のエネルギー付近にあり、赤外光を吸収して振動します。ただし、赤外光を吸収できる振動には「双極子モーメントの変化を伴うもの」という制限があります。2つの振動が互いに打ち消しあうものは、赤外吸収をしないということです。
直線状分子のCO2の場合、対称伸縮振動は双極子モーメントが変化しないため赤外光を吸収しませんが、逆対称伸縮振動は双極子モーメントが変化する為、赤外光を吸収します。また、直線分子の中でも2原子分子のO2やN2の場合は、逆対称伸縮振動ができず、赤外光を吸収しません。CO2が温室効果ガスとして働くのは、CO2が赤外光を吸収する振動を持ち、大気が暖められるためです。
非直線状分子のH2Oの場合、対称伸縮振動、非対象伸縮振動どちらもモーメントが変化する為、赤外光を吸収します。対称伸縮振動は3652cm−1、非対象伸縮振動は3756cm−1です。
以上は、赤外吸収の一例です。非対称伸縮振動に加え、変角振動や回転運動においても、双極子モーメントの変化を伴う場合に赤外吸収を観測することができます。