FTIRの基礎(3) フーリエ変換
身近に使用されるフーリエ変換
フーリエ変換とは、一言で言えば
「重なりあった異なる周波数の波を、周波数毎に分離する」
方法です。
フーリエ変換は、実は我々の身近な様々なところで使われています。例えば、携帯音楽で保存されるデータファイルがその一例です。通常、音楽は様々な周波数の(高さの異なる)音で構成されます。この音楽を携帯音楽用に録音する場合、大抵はデータを圧縮して録音します。圧縮では、人間の耳には聞こえない高周波数領域(設定にもよるが、20kHz以上)をカットしています。高周波領域をカットする際に、音を周波数毎に分ける手法がフーリエ変換です。パソコン等で音楽を再生する際に表示されるグラフ(図1 上)が、音楽をフーリエ変換した結果に当ります。
また、高音、あるいは低音を強くするといった、特定の周波数に変化を加えるイコライザ(EQ)にもフーリエ変換は用いられます。
図1 音の周波数表示(上)とイコライザ(下)
FTIRにおけるフーリエ変換
FTIRでは、ビームスプリッタで分離した2つの光束から干渉波を合成し、検出した干渉波をフーリエ変換、各波数に分離することでスペクトルを得ます。
図2は、FTIRにおける干渉波の出力の様子(二色光の場合)を示しています。
図2 FTIRにおける干渉波の出力信号
単色光は、同じ周波数の波の重ね合わせになります。移動鏡の位置により位相が揃う場合に干渉光の強度が増し、位相が弱めあう場合に減少します。光のエネルギーを縦軸に、一定速度で移動鏡を動かした場合の時間(移動した距離)を横軸にとると、図3の①のsin波になります。このsin波をフーリエ変換すると、単色光のスペクトルになります。
二色光の場合は、異なる周波数の波の重ね合わせになるので、多少複雑な波形で図3の②になります。この信号をフーリエ変換することで、二色光のスペクトルを算出できます。
実際の連続光では、様々な周波数の波の重ね合わせになります。t=0(光路差ゼロ)のとき、全ての波数の光が同位相で強め合うため信号強度は最大になりますが、時間がたつに従って、異なる周波数の波同士が打ち消しあい、信号強度は次第にゼロに収束していきます。 この信号をインターフェログラムといい、インターフェログラムをフーリエ変換することで連続光のスペクトルを算出できます。
図3 フーリエ変換によるスペクトル取得
デジタル信号取得とデータ補間
FTIRの検出器で観測されるインターフェログラムはアナログ信号です。フーリエ変換を行うためには、デジタル信号として取得する必要があります。FTIRでは、He-Neレーザーの単色光(632.8nm)を干渉計に導入し、移動鏡の動きに連動したレーザー干渉光出力信号をデータ取得指示に利用しています。He-Neレーザーは非常に安定した単色光であるため、正確に、等間隔でインターフェログラムを取得でき、波数精度の高いスペクトルを得ることができます。
図4 FTIRにおけるデジタル信号取得
また、取得したデータを滑らかにする手法に、ゼロフィリングというものがあります。これは、インターフェログラムにゼロ点を付加するもので、プロット間隔を補間することができます。ただし、実際の光路差が大きくなるわけではないので、分解能は変わりません。
図5 ゼロフィリング
まとめ
ここでは、ごく簡単にFTIRで使用されるフーリエ変換について紹介しました。より詳しくフーリエ変換を知りたい方は、専門書をご参照ください。