技術情報 Web基礎セミナー ラマン分光法の基礎(1) ラマン分光法とは?
ラマン分光法の基礎

ラマン分光法の基礎(1) ラマン分光法とは?

ラマン分光法とは?

物質に光を照射すると、光と物質の相互作用により反射、屈折、吸収などのほかに散乱と呼ばれる現象が起こります。散乱光のなかには入射した光と同じ波長の光が散乱されるレイリー散乱(弾性散乱)と、分子振動によって入射光とは異なる波長に散乱されるラマン散乱(非弾性散乱)があります。
ラマン散乱光はレイリー散乱よりも10−6倍ほど微弱な光です。その微弱な光を分光し、得られたラマンスペクトルより、分子レベルの構造を解析する手法がラマン分光法です。
ラマン散乱光とレイリー散乱光
図1 ラマン散乱光とレイリー散乱光

ラマンスペクトルとは?

通常のラマン分光光度計では、励起光源として単色光のレーザーを使用し、散乱される光を分光器に通してラマンスペクトルを検出します。ここで得られたラマンスペクトルの縦軸は散乱強度(Intensity)、横軸はラマンシフト(cm−1)として示します。入射光と散乱光のエネルギー差、すなわち振動数の差を意味します。ラマン散乱のなかで、入射光よりも低い振動数(長波長)領域に観測されるバンドをストークス散乱(ν0ν)、高い振動数(短波長)領域に観測されるバンドをアンチストークス(ν0+ν)と呼びます。例えば、硫黄を励起波長532nmのグリーンレーザーで測定したラマンスペクトルを図2に示します。非常に強いレイリー散乱を中央にして低波数側(長波長側)にストークス散乱が、高波数側(短波長側)にアンチストークス散乱が観測されます。一般的なラマンスペクトルでは、通常、強度の大きいストークス散乱光を用い解析します。
ラマン散乱光とレイリー散乱光、硫黄のラマンスペクトル
図2 硫黄のラマンスペクトル

ラマン分光法と赤外分光法の違い

ラマン分光法以外にも、分子の振動情報より分子構造を解析する振動分光法に赤外分光法があります。赤外分光法は、分子の振動エネルギーに相当する光エネルギーの吸収、赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を検出する方法です(図3)。一方ラマン分光法は、入射光に対して分子の振動エネルギー()だけシフトしたラマン散乱を観測します。このため、赤外分光法とラマン分光法では同じ官能基の振動モードが同じ波数に検出されます。
ラマン分光法と赤外分光法の違い、振動エネルギー順位
図3 振動エネルギー準位
L-シスチンのラマンおよびIRスペクトルを図4に示します。原理的な違いから、ラマン分光法ではS-SやC-C結合のように分子の振動によって分極率(電子雲)の体積が大きく変化する対称性のよい振動モードが強く検出されます。赤外分光法ではC=OやO-Hのように振動によって双極子モーメント(電荷の偏り)が大きい振動モードが非常に強く検出されます。双方の分析手法を併用することで詳細な分子構造を解析することが可能です。
L-シスチンのラマンおよびIRスペクトル
図4 L-シスチンのラマンおよびIRスペクトル
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