技術情報 Web基礎セミナー ラマン分光法の基礎(2) ラマンスペクトルの特徴
ラマン分光法の基礎

ラマン分光法の基礎(2) ラマンスペクトルの特徴

ラマンスペクトルの特徴

前項で、原理的な違いからラマン分光法と赤外分光法では検出できる官能基のピークの相対強度が異なることを紹介しました。(例えばIRスペクトルでは検出が困難なS-SやC-C結合に関する情報がラマンスペクトルでは得られる。)
しかし、測定により得られるラマンスペクトルは物質に固有な情報であるため、IRスペクトルと同様、蓄積されたデータベースとスペクトル形状を照合することにより、未知試料を同定できます。官能基の特徴的なピーク(図1)は、ほぼ一定の波数域に検出されるため、化合物の部分的な構造を推定することも可能です。
官能基のラマンピーク位置
図1 主なラマンシフト値の一覧
ラマン分光法による試料の同定
図2 ラマン分光法による試料の同定

赤外分光法と比較したラマン分光法のメリット

  1. サンプリングの必要が無く、試料をそのままの形で測定できます。有機物、無機物に関係なく、溶液、粉末、結晶、気体状態での測定が可能です。
  2. ガラス容器に入れた水溶液の測定が可能です。そのため、緩衝液中の生体試料の測定ができます。
  3. S-S、C-S伸縮振動はタンパク質などの生体試料に広く分布しており、ラマンスペクトルに強く現れるため、生体試料の構造解析に関して有力な手がかりになります。
  4. 顕微ラマン分光では、レーザー光を約1µmに絞って照射できるため、局所的な測定が可能です。
  5. 特殊な光学素子や検出器を使うことなく、400cm−1以下の低波数域の測定が可能です。さらに、低波数測定ユニットを使用すれば、5cm−1(NRS-7200の場合)まで測定ができます。
  6. 共焦点光学系を利用することで、埋没した異物や深さ方向の分析が非破壊で行えます。
顕微ラマン分光光度計(NRS-5000)で鉄サビを測定した例を図3に示します。右上の試料写真から、金属板上に見た目の異なる不均一なサビが生じていることが確認できます。NRS-5000では、金属板上のサビを削る必要なく、サンプルを試料室にセットするだけで顕微試料画像を確認しながら測定点のラマンスペクトルを確認できます。一般的に重い原子から成る無機物や結晶の格子振動は低波数域にピークが検出されるため、ラマン分光法による分析が効果的です。これにより、見た目の異なる2つのサビ、Aはβ-FeOOH、BはFe3O4という構造の違いを確認できました。
鉄サビのラマンスペクトル
図3 鉄サビのラマンスペクトル

まとめ

ラマン分光法と赤外分光法では、測定できる試料や分析によって得られる情報が異なるため、試料に応じて赤外分光光度計とラマン分光光度計を使い分けることで、非常に多くの試料を分析することが可能です。
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