超臨界流体は今からおよそ200年前の1822年にフランスのCharles Cagniard de la Tourにより発見されました。その後、超臨界流体は物質の状態変化や物性の変化など、物理化学的な基礎研究の対象となりましたが、しばらくの間は超臨界流体を利用した技術が実用化されることはありませんでした。
1879年にJ. B. Hannay、J. Hogarthにより、超臨界流体に物質を良く溶かす性質があることが発表されると、超臨界流体の溶媒としての利用の研究が進みました。
超臨界流体をクロマトグラフィーの移動相として利用することは1958年にJ. Lovelockにより提案されていましたが、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)の研究が進んだのは1960年代に入ってからです。1962年にE. Klesperらにより、初めてのSFCの報告がなされました(図1)※1。彼らは、超臨界流体を用いてポルフィリンの分離に成功し、さらに出口弁のところでポルフィリンを回収できたことから、SFCによる分取の可能性も示唆していました。
※1 K. Klesper, A.H. Corwin and D.A. Turner, "High Pressure Gas Chromatography above Critical Temperatures. Journal of Organic Chemistry" J. Org. Chem., 27, 700 (1962)1977年、W. HartmannとE. Klesperは分取SFCで得たフラクション中のスチレンオリゴマーを質量分析計(MS)で分析した論文を発表しました。移動相の超臨界流体をMSに直接導入するSFC-MSシステムはL. RandallとA. Wahrhaftigにより1978年に初めて発表されました。
超臨界流体抽出の実用化については、1978年にドイツのCR3カフェフェアデルングMヘルムゼン社が超臨界二酸化炭素抽出によるコーヒー豆の脱カフェインの工業化に成功しています。
1980年代に入ると、SFC関連の研究がますます盛んになり、とりわけ1980年から1990年の10年間で、超臨界流体の溶媒としての特性の研究が盛んに行われるようになり、超臨界流体技術が成熟し、システム化の技術も飛躍的に向上しました。
1985年、森永製菓研究所と日本分光は、共同研究により、コーヒー豆からカフェインを超臨界二酸化炭素で抽出し、オンラインでSFC分析を行うことが可能な紫外可視多波長検出器を用いたSFE/SFCオンラインシステムを発表しました。
1987年、K. Jinnoらが超臨界流体クロマトグラフィーの保持機構や温度、圧力、密度をパラメータとした保持予測の論文を発表、1988年にはD. Ishiiらが1回の分析中に、温度と圧力を制御し、移動相を気体、液体、超臨界状態と相変化させるUnified Fluid Chromatography(UFC)の論文を発表しています。
1991年に、E. D. Ramsey、J. R. Perkins、D. E. Gamesらが、オンラインSFE/SFC/MSシステムを発表しました。
1990年代後半には、超臨界流体システムを用いたキラル分離や分取が盛んに行われるようになり、装置やカラムの開発が促進され、超臨界流体関連技術は一層の成熟を遂げました。
ところで、我が国の超臨界流体技術は、超臨界流体システムが高圧ガス保安法の規制の対象となるため、導入時の費用やランニングコストが高価となったり、技術の一部が実現不可能になるなどして、規制のない諸外国にくらべて不利な状況となっていたと言えるでしょう。
しかし、2016年11月に高圧ガス保安法が改正され、少量の高圧ガスを利用する内容積100mL以下の超臨界流体システムが規制の適用除外となりました。この適用解除をきっかけとして、我が国の超臨界流体技術が促進されることが、期待されます。
一方、大量のサンプルを抽出したり、分取したりすることが可能な内容量100mLを超える超臨界流体システムは高圧ガス保安法の規制の対象となります。内容積100mL以下のシステムでも、将来スケールアップなどを考える場合には、各装置の高圧ガス保安法への対応を見据えておく必要があります。
年 | 出来事 |
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1822年 | Charles Cagniard de la Tourにより臨界点が発見される |
1879年 | J. B. Hannay、J. Hogarthにより超臨界流体(ガス)が物質を溶かすという現象が発表される |
1950年代 | 超臨界流体(ガス)が抽出分離(SFE)に利用され始める |
1962年 | E. Klesperらにより、クロロフルオロメタンの超臨界流体でポルフィリン誘導体の分離(SFC)が行われた |
1975年 | 日立中央研究所の藤田らにより日本で最初のSFCに関する報告が発表される |
1976年 | E. Stahlらにより、SFE-TLCにて、種々化合物の抽出モデル実験、天然物中の有効成分の分析が行われた |
1977年 | HartmannとKlesperがSFCでのフラクションをMSで分析したと発表 |
1978年 | RandallとWahrhaftigがSFC-MSを論文として発表 ドイツのブレーメンのCR3カフェフェアデルングMヘルムゼン社がコーヒー豆の脱カフェインの工業化 |
1980-82年 | Schneider、Peaden、Lee、GiddinasらがSFCの総説を発表 |
1981年 | M. Novotny、Leeらがキャピラリ-SFCを開発 |
1983年 | K. K. UngerらがSFE/HPLCオンラインシステムの論文発表 |
1985年 | MourierらにがSFCによるキラル分離発表 |
1986年 | PerrutとJusforguesによる内径60mmのカラムを用いた分取SFC開発 |
1987年 | K. Jinnoらが超臨界流体クロマトグラフィーの保持予測の論文発表 |
1987年 | イギリスにてSFCのワークショップが初開催 |
1988年 | D. Ishii、T. Takeuchiが1回の分析中に、温度と圧力を制御し、移動相を気体、液体、超臨界状態と相変化させるUnified Fluid Chromatographyを発表 |
1989年 | E. D. Ramsey、J. R. Perkins、D. E. GamesらがオンラインSFE/SFC/MSの論文を発表 |
日本分光では1980年代初めから超臨界流体を利用した分析機器の開発に着手しました。
オンライン抽出、リサイクルSFC、キラル分取、UFC-MS等、様々なシステムを開発、製造、販売を積み重ね、超臨界流体技術への取り組みは今年(年現在)で年となりました。
年 | 出来事 |
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1982年 | 超臨界流体技術の開発 |
1985年 | Supper-100型SFE/SFC/多波長紫外検出器オンライン分析システムを販売開始 |
1985年 | SFE/SFC ハイフェネーテド・システムを開発 コーヒー豆からカフェインをSFE抽出、直接導入SFC分離を行い、PDA検出器でモニターした |
1986年 | Supper-200型SFE/SFCオンライン分析システムを販売開始 |
1986年 | 世界で初めて※2SFCのアミノ酸キラル分離(※2 日本分光調べ) |
1996年 | SCF-201型SFE/SFCシステム販売開始 |
1997年 | SFCでキラル分析 |
1999年 | SCF-GetおよびSCF-Bpg販売開始 |
2000年 | 円二色性検出器によるキラル分析 |
2007年 | 分取SFC/SFE販売開始 |
2015年 | EXTREMA seriesとして超臨界流体関連の製品をリニューアル |
2016年 | 質量分析計(Advion expression CMS)の販売開始 |