我が国の超臨界流体技術は、「超臨界流体関連技術の歴史」で述べた通り、規制のない諸外国にくらべて不利な状況が続いているという指摘があります。規制によって、安全性を重視した信頼性の高い装置や技術の開発が促進されてきたと考えることもできますが、システムの導入価格や維持費が高くなったり、諸外国では利用可能な技術が採用できなかったりするなどの問題があります。
このような背景から、我が国では、長らくの間、超臨界流体システムは特殊な装置というイメージが定着し、その用途も限られたものと考えられがちでした。
たとえば、HPLCにおいては、古くから様々な要求に対するソリューション開発が盛んに行われ、その技術や装置の開発が促進されました。とりわけカラムの多様化はHPLCの応用範囲を格段に広げ、HPLCの市場の拡大に多大な貢献を果たしました。
一方、SFCにおいては、1960年代にその技術が発表され、1980年代に優れた装置が開発されたにも関わらず、ソリューション開発が進まず、その後の発展は大きく遅れました。SFCならではのキラル分離や分取などのアプリケーションが注目され、ソリューション開発の取り組みが積極的に行われるようになるまで30年以上の歳月を要しました。
21世紀に入ってからは、超臨界流体技術の基礎研究がさらに進み、既成概念にとらわれない様々な応用例が報告されるようになりました。SFCは、長らく低極性成分しか分析できないと考えられていましたが、現在では高極性化合物の分析も行われるようになってきました。
カラムの多様化やSFC-MSの利用により、キラル分析だけではなく、アキラル分析の応用例も増えています。また、SFCはGCやLCでは見られない分離挙動を示すこともあり、GCやLCで分離できないものがSFCで分離できることがあります。分析対象とする試料も、右 記に掲げるように広がりをみせています。
とりわけ研究開発が進んでいる諸外国においては、SFCはもはや特殊な分析法ではなく、LCやGCと並列な分離分析手法として当たり前に使用されています。我が国においても、LC、GCに続く第3のクロマトグラフィーとして改めて注目され始めています。
1) Cheryl M. Harris: Anal. Chem., 74(3), pp87A-91A, (2002).
“The SFC Comeback”
2) Terry A. Berger: J. Chromatogr. A, 785, 3-33 (1997).
“Separation of polar solutes by packed column supercritical fluid chromatography”
3) Larry T. Taylor : J. of Supercritical Fluids, 47, 566-573, (2009).
“Supercritical fluid chromatography for the 21st century”
4) Kayori Takahashi, Shigetomo Matsuyama, Takeshi Saito, Haruhisa Kato, Shinichi Kinugasa, Takashi Yarita, Tsuneaki Maeda, Hideaki Kitazawa, Masao Bounoshita: J. Chromatogr. A, 1193, 146-150 (2008).
“Calibration of an evaporative light-scattering detector as a mass detector for supercritical fluid chromatography by using uniform Poly(ethylene glycol) oligomers”
5) Tamaury Cazanave-Gassiot, Robert Boughtflower, Jeffrey Caldwell, Laure Hitzel, Claire Holyoak, Stephen Lane, Paul Oakley, Frank Pullen, Stefan Richardson, G. John Langley: J. Chromatogr. A, 1216, 6441-6450 (2009).
“Effect of increasing concentration of ammonium acetate as an additive in supercritical fluid chromatography using CO2-methanol mobile phase”
6) Craig White, J. Burnett: J. Chromatogr. A, 1074, 175-185 (2005).
“Integration of supercritical fluid chromatography into drug discovery as a routine support tool II. Investigation and evaluation of supercritical fluid chromatography for achiral batch purification
7) Yoshiteru Horikawa: CHROMATOGRAPHY, 32, No.3 153 (2011).
“Good use of Supercritical Fluid Chromatography”
今回の高圧ガス保安法改正においては、容量100mL以下の分析用の超臨界流体クロマトグラフや超臨界流体抽出装置が規制の対象から除外されました。全ての超臨界流体システムが規制の対象から外れるわけではありませんが、今回の改正をきっかけとして、我が国の超臨界流体技術の向上や応用範囲の広がりの促進が期待されています。
容量100mLを超える分析用の超臨界流体システムについては、規制の対象となりますので、日本で販売される装置そのものについては従来通りの安全性を重視した設計と製造が必要とされています。また、容量100mL以下のシステムについても、容量のスケールアップを行う際には、関係官庁に申請登録が必要となりますので、関係書類を速やかに提出できるよう準備する必要があります。
また、規制対象外となったシステムについても、法的な義務はありませんが、システムを安全に運用するための管理と運用や定期点検を実施することが推奨されています。