技術情報 Web基礎セミナー 超臨界流体の基礎(4) 超臨界流体クロマトグラフィーの特長
超臨界流体の基礎

超臨界流体の基礎(4) 超臨界流体クロマトグラフィーの特長

SFCとHPLCの分析データの比較

超臨界流体中における溶質分子の拡散係数は、液体中よりも数百倍大きく、粘性は1桁以上小さい値となります。このような媒体を移動相として使用する超臨界流体クロマトグラフィーSFC(Supercritical Fluid Chromatography)は、液体を移動相として用いる高速液体クロマトグラフィーHPLCと比較して、カラム内での物質移動速度が速いため、高流速でも分離効率が低下せず、高い効率を保ったまま高速分離が行えます。

下図は超臨界二酸化炭素を移動相としたSFCとヘキサンを移動相としたHPLCにおける理論段相当高さH(height equivalent of one theoretical plate)と流速uの関係を示したvan Deemterプロットを比較したものです。HPLCでは流速uが大きくなると、理論段相当高さHが大きくなり、カラム効率が低下していますが、SFCでは流速uが増加しても、理論段相当高さHは小さいままであり、カラム効率を維持したまま高速分析を実現できることがわかります(HPLCと比較して1/2~1/10程度)。

SFCとHPLCのカラム効率の比較
SFCとHPLCのカラム効率の比較
図1 SFCとHPLCのカラム効率の比較
[測定条件(HPLC、SFC)]
Column CHIRALPAK AD-H (5 µm, 4.6 mm ID × 150 mmL)
CHIRALPAK AD-3 (3 µm, 4.6 mm ID × 150 mmL)
Column temp. 40 ℃
UV wavelength 250 nm
Sample 1 mg/mL Flavanone in MeOH、5 µL
Mobile phase HPLC; Hexane/EtOH (90/10)
SFC; CO2/EtOH (90/10)
Total flow rate HPLC; 2.5, 2.0, 1.5, 1.0, 0.75, 0.5, 0.3, 0.1 mL/min
SFC; 3.6, 3.2, 2.6, 2.0, 1.4, 0.8 mL/min
SFC Pressure 20 MPa


下図はHPLCとSFCでフラバノンを分離度が同じ値になるように光学分割したクロマトグラムを比較したものです。HPLCの場合11分で分離されているものが、同じカラムを使用したSFCの場合3.5分で分離されています。さらに、SFCでは、粒子径3µmのカラムを使用すると、分析時間を1分まで短縮することができます。このようにSFCはHPLCと比べて分析時間を短縮することが可能です。

HPLCとSFCの分析時間の比較
図2 HPLCとSFCの分析時間の比較

SFCのシステム構成

SFCでは、分離のパラメータとして温度、圧力およびモディファイアー溶媒量(補助溶媒量)があり、これらの条件を変えることで、HPLCのグラジエント溶離法と同様に分離挙動やピーク形状などを変化させることができ、分離の向上や測定時間の短縮を行うことができます。モディファイアーとして使用する有機溶媒の割合は数%から50%以上となることがあります。二酸化炭素と有機溶媒の混合物の臨界点(臨界圧力、臨界温度)は二酸化炭素よりも高くなるため、分析条件によっては移動相が超臨界状態でなくなり、亜臨界状態または二液混合状態となります。従って、圧力、温度、モディファイアー溶媒量を変化させることにより、移動相の相状態を変化させることができ、1つのシステムで液体クロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィーを行うことが可能となります。

下図は超臨界流体クロマトグラフの基本的な流路を示したものです。10のカラムオーブンで温度、13の自動圧力調整弁で圧力、2の液化二酸化炭素送液ポンプと5のモディファイアー送液ポンプで二酸化炭素とモディファイアーの組成比を変更することができます。

SFCの基本的な流路
図3 SFCの基本的な流路図

これらのパラメータの組み合わせで、移動相を超臨界状態、亜臨界状態、液体とすることができます。2のポンプの流量を0とし、5のモディファイアー送液ポンプのみ作動させると、有機溶媒のみの液体クロマトグラフィーを行うことも可能です。

このようなことから、SFCは、UFC(Unified Fluid Chromatography)やUC(Unified Chromatography)と呼ばれる場合もあります。Ishi、Takeuchiらが1989年に発表した論文Unified Fluid Chromatographyのアブストラクトには下記のように述べられています。

Unified Fluid Chromatography

Daido Ishii Toyohide Takeuchi, J Chromatogr Sci (1989) 27 (2): 71-74.

Abstract

The concept of unified fluid chromatography is described. Different-mode separations can be carried out with a single chromatographic system by changing the column temperature and the pressure. Gas chromatographic separation of hydrocarbons and subsequent supercritical fluid chromatographic separation of styrene oligomers are carried out in series in a single chromatographic run.

また、超臨界二酸化炭素を移動相としたセミ分取/分取超臨界流体クロマトグラフィーにおいては、分離分画した試料を常圧にすると、移動相の二酸化炭素が気化するため、分取後の溶媒除去の後処理が容易です。同様な理由からHPLCと比較して溶媒除去が課題となる質量分析計(MS)や蒸発光散乱検出器(ELSD)などを簡便に利用することができます。

下記、日本分光の技術資料もあわせてご覧ください。

『超臨界クロマトグラフィーの使いどころ』はこちら
1 2 3
4
5 6 7 8