技術情報 Web基礎セミナー 超臨界流体の基礎(5) 超臨界流体抽出の特長
超臨界流体の基礎

超臨界流体の基礎(5) 超臨界流体抽出の特長

有機溶媒と超臨界二酸化炭素の抽出・前処理の比較

超臨界流体抽出法(Supercritical Fluid Extraction, SFE)は、目的成分が含まれる対象物に抽出媒体とする超臨界流体を加え、溶解度の差を利用して抽出操作を行う手法です。特に超臨界二酸化炭素を抽出媒体として用いる方法は多くの利点を有しているため、様々な分野で利用されています。

超臨界二酸化炭素を用いる抽出は、有機溶媒抽出法と比較して時間の短縮や操作の簡略化、抽出効率の改善が期待できると同時に、抽出後の溶媒除去・濃縮操作が容易になります。また、二酸化炭素の臨界温度が 31℃程度と低いため、室温に近い状態での抽出ができ、さらに酸素の存在しない二酸化炭素雰囲気下の状態で抽出ができ、温度に不安定な物質や酸化されやすい成分に対して利用することができます。近年では、グリーンケミストリーで提唱されている有害な有機溶媒を使用しない環境に優しい抽出法として注目されています。

有機溶媒
 ソックスレー抽出+精製
 溶媒抽出+精製
欠点
  • 有害な有機溶媒を使用
  • 作業が繁雑で手間がかかる
  • 前処理時間が長い
  • 濃縮操作
  • 微量の残留溶媒
超臨界二酸化炭素
 二酸化炭素
 二酸化炭素+エタノールなど
利点
  • 安全な二酸化炭素を使用
  • 作業が簡単、自動化が可能
  • 短時間で抽出・前処理が可能
  • 選択的抽出が可能
  • オンラインSFE-SFC
  • 試料の酸化防止、低温での操作
表1 従来の有機溶媒と超臨界二酸化炭素の抽出・前処理法の比較

超臨界二酸化炭素抽出の応用例

SFEの応用は、天然物からの各種フレーバや薬効成分、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)などの高度不飽和脂肪酸や脂肪酸エステル、脂溶性ビタミン、医薬品などの有効成分の抽出、脱カフェインや錠剤中の脱溶媒のような不要成分の除去、HPLCやGCなどの分析用試料の前処理にも適用されています。

食品関係 コーヒー豆
お茶
ホップ
レッドペッパー
魚粉
魚油
植物
植物油
脱カフェイン
香味成分
ホップエキス
辛味エキス、色素
魚油
EPA、DHA
エッセンシャルオイル、色素、薬効成分
ビタミンE
医薬品関係 天然物
錠剤
薬効成分・生理活性物質
残留溶媒
化学工業 石炭・石油・エネルギー
プラスチック・ゴム・ポリマー
金属
無機化合物・セラミックス
エアロゲル
電気・電子部品
低沸点成分
重合溶剤
モノマー
オリゴマー
不純物
異臭
展開剤
脱脂
脱水
脱溶媒
洗浄
その他 たばこ
土壌
ニコチン
有機物
表2 超臨界二酸化炭素抽出の応用例

超臨界二酸化炭素抽出システム

SFEシステムの基本構成と流路図を下図に示します。システムは、液化二酸化炭素送液ポンプ、エントレーナー送液ポンプ、高圧容器、恒温槽、必要な場合には抽出をモニタリングする検出器、そして、抽出圧力をコントロールする自動圧力調整弁が下流に接続されています。

SFEの基本的な流路
図1 超臨界流体抽出システムの基本構成

高圧容器は、抽出試料の状態によりカラム型やカップ型の容器を選択し、種々の容量のタイプを選ぶことが可能です。抽出条件は、圧力や温度、そして、モディファイアー溶媒の種類や量などをパラメータとして変更し、適切な条件を設定することができます。観測窓から超臨界状態下での試料の抽出や反応プロセスをリアルタイムで観測することができるビューセル(観測用セル)を取り付けることも可能です。

超臨界流体システムで使われる圧力容器
図2 超臨界流体システムで使用される圧力容器の例
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