HPLCの基礎（8） トラブルの現象と原因の関係編

HPLCにトラブルが発生したときに迅速かつ的確に対応するためには、次の3つのポイントが大変役に立ちます。

• トラブル現象の的確な状況把握と観察眼
• 原因探索のための簡単な実験や操作法の知識と実践
• トラブル原因の分類

この3つのポイントを踏まえて、「トラブルの現象と原因の関係」を知ることにより、効果的な対処が可能になります。
ここでは、「トラブル現象の的確な状況把握と観察眼」についてご紹介します。

① クロマトグラムにあらわれるメッセージを読み取る
トラブルが発生した時、その現象を注意深く観察することは大変重要です。クロマトグラフィーを行った結果として得られたクロマトグラム（データ）には、分離に使用したカラムや移動相、測定システム（クロマトグラフ）の状態、そして、測定のために行った一連の作業（標準試料の調製、実試料の前処理など）を反映しているためです。すわなち、クロマトグラム上に発生している現象が、原因のメッセージを載せて発信していることがあります。このメッセージを読み取ることは、トラブルの原因の絞り込みに大いに役立ち、トラブル解決への近道となります。

② クロマトグラム観察のポイント
クロマトグラムを観察して、トラブルの状況を把握する時には、次のような見方をします。

1. 良好なデータとトラブルが発生しているデータとの比較を行う。
   クロマトグラム（ベースラインとピーク）にどのような違い（差）があるかを明確にする。
2. トラブル現象の経時的な変化（頻度、周期性や方向性など）を見つける。
3. クロマトグラム上の現象と何かのファクターが連動・同期していないかを探す。

このような見方をすると現象と原因の関連付けなどに役立ちます。

③ 比較結果を見た目でわかりやすく表現する(可視化)
観察した結果を口頭の表現だけで伝えることは、大変難しいものです。上司や先輩に的確に現象を伝えるためには、次のような工夫が役立ちます。

• 測定の経過とともに並べてみる(図1)
• 良好なクロマトグラムと問題のあるクロマトグラムを並べてみる(図2)
• 客観的に判断できるよう数値化する
  ピーク面積（µV・sec）、ピーク高さ（µV）値、分離状態（分離度：R）、ピーク形状（シンメトリー係数：As）、ノイズの大きさ など
• 定量結果などは統計計算処理機能を利用して行う

これらは、データ処理装置の機能も便利に利用できます。図3にデータ処理装置の計算機能から、計算できる様々なクロマトグラムの数値を示します。

④ 俯瞰的な観察眼
②-3 でも触れましたが、現象の変化を捉えるためには、クロマトグラムの変化が何か別の経時的な変化ファクター(例えば、ポンプの圧力変動、室温、移動相溶媒の量、カラムの総測定検体数や溶媒送液総量などの履歴との関係など)と連動しているかも？という観察眼を持つことも重要です。これらの関連性を見つけることにより、要因を絞り込み、高い確率で原因を特定できるようになります。

まとめ
ここでは、「トラブル現象の的確な状況把握と観察眼」についてご紹介しましたが、「原因探索のための簡単な実験や操作法の知識と実践」や「トラブル原因の分類」、より具体的なトラブル現象と原因の関係を知りたい方は Jasco Report Vol.63 No.1 をご参照ください。